「とにかく、あがってこい!」と電話口で怒鳴られる。
どんなミスがあったのだろうか、と振り返るがとくに思い当たることはない。とにかく、こういうことはスピードが命と、いくらか情けなく思いつつも階段を駆け上がる。
ついた先は、ひろびろとしたオフィスのフロアーだった。照明が明るく、働く一人ひとりの姿がやけにはっきり見える。電話の相手は、奥のデスクのところで手招きをしている。デスクのわきのソファーに向かい合って座って話し出すと、相手はそれほど怒っている風でもなく、直接業務に関係のない話題を振ってくる。
いつもパワハラそのものの無理な指示を出したり罵声を浴びせたりする男だが、こうしてみるとむしろ僕のことに好きで、話がしたくて呼んだのではないか、とうぬぼれめいた気持ちがわいてくる。
相手が大声で話して大声で笑うので、僕も対等な立場を誇示するように、負けじと大声を出して笑った。