大井川通信

大井川あたりの事ども

『涼宮ハルヒの退屈』 谷川流 2004

4つの短編を収録。いずれもアニメ化されて、それぞれ印象的なエピソードだったもの。人物の台詞までかなり忠実にアニメ化されているから、小説を読みながらまるでアニメを見直しているような既視感があって、正直なところあまり新鮮味がなかった。普通に考えたら、ゼロからこのストーリーを生み出すのはすごい作業だと思うのだが、やはり初見のアニメでの衝撃の残響があるので、原作でそれをかき消すのは無理な話だった。

涼宮ハルヒの退屈」は、6月にSOS団が市民の野球大会で奇妙な活躍をする話。ハルヒキョンに4番の活躍をさせたがっているという古泉一流の解説と、この世の出来事を「情報操作」で変えてしまう長門の活躍が印象に残る。

笹の葉ラプソディ」は、珍しくメランコリックなハルヒの表情が魅力的だし、3年前のハルヒ「誕生」の原点が描かれる重要なエピソードだ。七夕の時期には、たまにアニメを見返したくなる。見事な小説のアイデアと構想だと思うが、こういうSF的設定は、やはり映像の力にはかなわない。中学1年生のハルヒの登場や、その時から同じマンションの一室で「待機モード」で待つ長門インパクトは、やはりアニメに分があるようだ。ただし、ハルヒがこの時宇宙に発したメッセージの意味が「私はここにいる」だったというオチの意味は深い。

ミステリックサイン」は、7月の期末テスト後の、善人キャラのコンピュータ研の部長の失踪にからむエピソード。ハルヒの無意識が、宇宙規模の事件を巻き起こし、その火消しをSOS団メンバーが行うというお決まりのパターン。今回も長門が大活躍。アンドロイドの長門の微妙な変化が、原作ではかなり丁寧に書き込まれていることに感心する。萌えキャラの朝比奈さんの出番が多いにも関わらず、いわば完成形である彼女よりも、未完成で危うい長門の人気が高かったのもうなずける。調査の依頼者の黄緑さんの存在に謎を残したところもいい。

孤島症候群」は、夏休みのSOS団の合宿のエピソード。僕でも気づくようなアニメ化での改変が目立つ。原作では、古泉の所属する「組織」総がかりでのハルヒ接待旅行というオチがしっかり書かれているが、アニメでは、ハルヒキョンの洞窟での避難シーンなども加え、ストーリーに余韻と膨らみを持たせている。ただし原作の方がわかりやすく、しっくり読めた。