実家に戻ると、父親は出かけていて姿が見えなかった。でもその父親という人はずいぶん若くて、まったくの別人のように思えた。母親は病気で、もう長くはもたないということだった。
しかし、ずいぶん元気そうだ。僕のために布団を取り出そうというのだろうか、押し入れの棚に身を投げ出すと、そこでくるくる身体を回しながら、布団を巻き取るように素早く動き回っている。なぜか旅館の布団部屋のように広い押し入れなのだ。
母親は、くるくると回りながら床に舞い降りると、ニコニコと笑った。これから死ぬような人には思えない、と僕も笑う。そして母はしばらく大丈夫ではないかと考えた。
夢の中には、時々、突拍子もない不思議な光景が現れることがある。今回は、広い押し入れの中で、身体を寝かせたままくるくる回転する母親だ。
町の中に突然出現したモアイ像みたいな銅像の唇の部分だけが、ぶるぶると振動を続けているということもあった。身体が地面に埋まっていて、首だけの人物が話しかけてくる、という場面は、無意識に僕が気に入っているのか、くりかえし夢に出る。