20代の頃、東京で塾講師をしていたとき、地元の公民館で市議会議員が主宰する会合やイベントに参加する機会が何回かあった。主宰は革新系の無所属のベテラン女性議員で、当時気鋭のマルクス経済学者小倉利丸を講師に呼んだ集会などもあったと思う。
そのグループの集まりで、いつも見かける度の強いメガネをかけた中年男性がいた。小倉さんの講演でも司会をつとめていて、本業は銀行員と聞いたので、きっと地元の信用金庫の窓際職員ぐらいだろうけれど熱心な人だなと思っていた。(小倉利丸の理論書を興味深かったと紹介した時、失礼ながら、このおじさんが本当に読んで理解できたのだろうかと疑ったのを覚えている)
やがて僕は東京を離れたのだが、ちょうどその頃東西冷戦の終結とバブルの崩壊が重なり、不透明な時代の羅針盤として経済や経済学ががぜん注目を浴びるようになる。僕も経済学者やエコノミストの書いたものに目をとおすようになった。
ある時、NHKの日曜討論をみているとき、度の強いメガネをかけた記憶にある顔が討論者の一人にいる。それが、山家悠紀夫(1940-)さんだった。信用金庫どころじゃない、トップバンクの第一勧銀の研究所員という肩書での出演だ。僕は、自分の不明を恥じざるをえなかった。
その後、山家さんは何冊もの著書を出し、政府の構造改革路線に対して明確に批判する論陣をはった。その間銀行を辞めて神戸大学の教授に転じている。その山家さんが、80歳を目前にして、平成30年の経済を振り返った本を岩波新書から出したのだ。いくら経済にうとい僕でも、心して読まないといけないだろう。