大井川通信

大井川あたりの事ども

『人は化ける!組織も化ける!』 中川政男 2005

昨年、ある経緯があって、ネットで購入した古書。実物を手にしたことに満足して読む気はまったくなかったのだが、かつてこの書の書名で笑いあった同僚と再会する機会ができたために、ネタとして読んでみることにした。

意外なことに面白い。子どもの頃は引っ込み思案で、たまたま就職した地元の信用金庫のやる気のない若手だった著者が、上司や顧客の経営者との良い出会いに助けられて、仕事へのやる気と情熱を持つようになり、山あり谷ありの会社員人生を送りつつも、最後に信金の役員にまでのぼり詰めるという話。その地位を不本意に退任することになったが、第二の人生として講演や経営塾を行う事務所を立ち上げるというオチがつく。

年間二百本という講演でのネタをまとめて本にしているためか、飽きることなく読み切った。信用金庫が舞台だから目線が低く、仕事ぶりも登場人物も泥臭くてリアリティがある。経験談としての面白さや説得力はあるが、部下を化かし、組織を化かすための方法論を読み取ろうとすると、基本は一生懸命長い期間やったおかげでそれができるようになったという手柄話だから、ちょっと著者に化かされたような気分にもなる。高度成長からバブル崩壊後までの経済の現場の記録としての意義もあるだろう。

今の僕には、一種の「定年本」としても読めることが有意義だった。著者は自らを例にして「人生二毛作」を提唱し、これまでの仕事とまったく別のことを、お金儲けとは関係なしに、できれば自営や仲間同士で行うことを勧めている。

このあたりの主張も講演や執筆という転身の仕方も、『定年前、しなくていい5つのこと』の著者大江英樹氏と似ているところがある。大江さんは大手証券会社でコンサルタントの仕事をしていたし、中川さんは信用金庫で営業や融資の仕事をしていた。二人とも、この社会の血液ともいうべきお金とその循環(経営や投資)に関する実践的専門家であるということが、その後の転身を容易にしているところがあるだろう。

お金には縁のない仕事や生活を送ってきたからとても彼らのマネはできないが、社会に訴求できる普遍性を軸において生き方を考える、という点では参考になった。

 

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