新しい職場の裏の林を散歩していたら、きれいな赤色の甲虫が羽を広げて、ゆったりと飛んでいる。とまったところを見ると、細長い身体の小さなカミキリムシだった。
体長は15ミリ程度。前羽は鮮やかな赤で、前胸部には黒い斑点が五個ある。頭と手足と長い触覚は黒色だから、スタイリッシュで精悍な印象だ。
あとで図鑑で調べてみると、ベニカミキリだとわかった。4-6月という発生時期も、本州・四国・九州という生息域も、まちがっていない。竹に産卵して、幼虫は竹を食べて育つとある。どおりで大きな竹林のわきで見つけたわけだ。
虫でも鳥でもそうだが、実際に野外で観察する生き物たちの生態が、図鑑などの記述と一致するのを知るたび、新鮮な驚きと不思議な気持ちをあじわう。自然の中に貫徹する法則の確かさとともに、それを執拗に観察した先人の努力に気づくからだろう。
ちょうど今日、郵送で、小学館の学習図鑑『昆虫の図鑑』が届く。オークションで見つけたものだ。昭和37年に改訂されて、昭和46年に発行されたものだから、子ども時代の僕が使っていたのと同じ図鑑だ。ほとんど使用感がないくらい状態がいいのもうれしい。
記述の細部まで当時のままなのに、想像していたようななつかしさを感じないのは意外だった。食い入るように読み込んでいたから、すっかり記憶に定着していて、なつかしさを感じるための「距離感」が存在していないためだろう。
半世紀近いご無沙汰なのに、まるで数日前まで読んでいた本のようだ。