大井川通信

大井川あたりの事ども

はじめての夢

僕が幼いころに見た夢で、はっきりと覚えている場面がある。直接の記憶というよりも、こうして何度も思い出すことによって、現在まで記憶が受け渡されてきたものだろう。しかし、夢の記憶としては、まちがいなく一番古いものだ。

川をはさんで、向こう側に道がみえる。川といっても、谷のように深くえぐれていて水面はみえない。向こう岸の道の背後には、すぐに山がひかえている。

向うの道には、こちらを向いて、両親の姿が見える。背の高い父親の隣には母親がいるが、二人だけではなかったから、姉もいたのだろうか。川には橋がかかっていないので、僕だけ川のこちら側に取り残されているのだが、かなりの距離があるから、彼らの表情はわからない。

これだけの場面だ。ずいぶん山が深い場所だから、奥多摩にでも出かけたときの思い出が反映されているのだろうか。この夢を見た当時は、家族から引き離される恐怖や悲しさが強かったと思うが、その感情を今では再現することはできない。

あれから半世紀以上時が経って、実際に両親は一人ずつ向こう岸に行ってしまい、夢の中でのように遠くからこちらを見ている。