大井川通信

大井川あたりの事ども

セミヤドリガ その3 -フィクションの試みとして

そんなある日、僕は、あるヒグラシが、胴体によく目立つ大きな白い綿菓子のようなものをつけて飛んでいるのに気づいた。翌日には、同じような白い綿菓子をいくつもつけたまま、幹につかまっているヒグラシを見かけることができた。それは明らかに寄生虫に犯された末期の姿に見えて、僕にはとても可哀想に思えたものだった。

しかし、図書館の専門書で調べると、僕の直感はまたしても方向違いであることがわかった。たしかにそれは、寄生虫の幼虫だけれども、寄生したセミを殺すことなく、共生しているというのである。

 

セミヤドリガ(蝉寄生蛾)鱗翅目 セミヤドリガ科

 日中でもやや暗いような、年を経たスギ・ヒノキの植林内で幼虫がヒグラシのメスに寄生しているのが多く見られる。幼虫は5齢まであり、スマートな1齢幼虫に対して、それ以降の幼虫は太っている。5齢幼虫になると、純白の蝋状物質でできた白色の綿毛で背面が被われるようになり、非常に目立つ。二週間あまりで、セミの体液から一生分の栄養を摂る。5齢幼虫は機をうかがってセミの腹部から糸を吐きながら脱落し、宙に揺れるにまかせて繭作りの場所を探す。

 羽化した成虫は繭の上やすぐそばにとまって羽が伸びきるのを待つ。確認される成虫はほとんど全てがメスで、交尾せずに産卵し、その卵から翌年幼虫が孵化する。一個体の産卵数は平均で300個程度とされ、一個ずつあちこちの樹皮下などにばらばらに生みつけられる。時を経た卵は、近くに来たセミの翅の振動などを感じて孵化し、取り付いて寄生生活に入ると言われる。

 

僕は、少し興奮して、今年の夏休みの自由研究は、この不思議な寄生虫のことを調べようと心に決めた。専門書には、寄生したあとの幼虫の成長や暮らしについては細かく書かれているけれども、肝心の寄生する方法についてはあいまいだ。卵から生まれたばかりの1ミリに満たない幼虫が、どうやってあんな用心深くて敏捷なヒグラシの成虫に寄生することができるのだろう。そのことを具体的に解明できれば、きっと立派な自由研究になるだろう。ただ、そのことはいくら考えてもよくわからなかった。