プレリュードにはあこがれていたけれども、購入したいという気持ちまではおきなかった。小型車で手に入れてみたいと思った唯一の車はいすゞのジェミニだった。
ジェミニ(二代目 1985-1990)は、当時、「街の遊撃手」というキャッチコピーで、パリの街並みをカースタントで走行するCMが話題となったこともあって人気があった。コンパクトでかくっとした車体に、きりっとした釣り目のようなヘッドライトもかっこよく、特別仕様のハンドリングバイロータスの登場が、僕にはとくに衝撃的だった。
イメージカラーの緑のボディーは、僕にはサンダーバード2号以来の大好物だったし、F1で人気のロータスとのコラボも魅力的だった。
当時、実家に戻り塾講師をしていて貯金もあった頃だったし、講師仲間とは、学生のように車や音楽や遊びの話題で盛り上がっていた。僕はこの時はじめて本気で自分の好きな車を手に入れようと思いかけたのだけれども、突然の進路変更で、そんな思いも立ち消えになった。
しかし僕のような気持ちをもった人たちは多くいたのだろう。その後ハンドリングバイロータスは、ミニカーやプラモデルになっているし、今でも緑のカラーのミニカーは、高額で取引されている。
以前から気になって調べてはいたのだけれども、今回僕は、ネットで中古のミニカーを手に入れた。けっこう高額だったけれども、この車は僕には特別な存在だ。そうして届いたミニカーのジェミニ・ハンドリングバイロータスを手に取って、僕はうっとりとながめている。