読書会の課題図書に自分で選んだ本。「おんな坑夫からの聞き書き」の副題がある。
一昨年に岩波文庫になって手に入れた時も読みすすめることができず、昨年森崎さんの訃報を受けても手に取ることができなかった。こうなると読書会に力を借りるしかない。近ごろは自分が「情報弱者」であることを自虐ネタにしていたが、最新の情報環境のみならず、そもそも読書という古典的な情報処理もまた得意ではなかったのだ。
ただ、自分は炭坑に魅かれて筑豊の炭鉱跡をすいぶん回ったから炭坑名や地名も具体的にイメージできるし、筑豊での勤務経験も長いから、筑豊の方言にもなじみがある。元炭鉱夫の人から現場で聞き取りをしたことも何度かある。それでも読みやすいとは言えなかったのだから、読書会のメンバーにはハードルの高い選書だったかもしれない。
女性の坑内労働禁止は、女性労働者保護の観点から正当な施策と思っていたし、いち早くそれに取り組んだ安川敬一郎を尊敬すらしていた。それがこの本で、坑内労働に誇りと喜びをもっていた女坑夫たちの強い不満を知って驚いた。何事も一筋縄ではいかない二面性、多面性があるものだ。
どんな悲惨な労働や生活が語られていても、著者のインタビューを受けるのは、それをこなして生き延びてきた精神的な強者たちである。「その姿には階級と民族と女とが、虹のようにひらいている」女たちをこそ、森崎さんが求めていたためだろう。
「日本の土のうえで奇型な虫のように生きている私を、最終的に焼きほろぼすものがほしかった」という著者の聞き書きに向かう動機は、どんなに切実なものであったにしろ、やはり倒錯しているとしかいいようがない。一緒に活動していた谷川雁や上野英信ら男たちの階級闘争史観のバイアスも当然著者は共有している。
読書会では、各章の末尾の著者の解題が上から目線だったり矛盾した見解を語っていたりして作品としての出来を損ねているという意見もあった。しかし、それは今の時代から振り返ってのないものねだりだろう。そうしたデコボコやジグザグを通して見えてくるのが森崎和江という一人の思想家の動かしがたい歩みなのだろうと思う。