大井川通信

大井川あたりの事ども

『少女地獄』 夢野久作 1936

夢野久作ゆかりの土地を歩いたついでに、手持ちの角川文庫の短編集を一冊読んでみた。どれも面白い。読んで損をしたような感じがしない。ストーリーの奇抜さもあるのだろうが、それ以上に根底にある人間理解が広くて深いような気がする。このあたり、江戸川乱歩に似ているというか、匹敵するのではないか。

「少女地獄」というのは三つの短編の連作となっているが、その一作目の「何でもない」には、嘘によって破滅する女の主人公が描かれている。単なる虚言癖というレベルでなく、人間がウソに取りつかれて、それが作り出す虚構の側に徹底的に立とうとする存在でありうることを描こうとしているかのようだ。

娯楽としての小説や映画がウソならば、現実世界で評判のいい夢や目標といったものも、今を基準にすれば所詮はウソでしかない。ウソや虚構にとりつかれた人間存在を見据える目がなければ、こんな奇妙な物語をとても思いついたりはしないだろう。

「女坑主」はかつての筑豊と炭坑主の羽振りのよい様子が描かれていて、炭坑好きには面白い作品だった。