僕のような森崎さんの初心者には、少し意外な印象の本だった。文章が読みやすくて、ストーリーを追って読みを促されるような場面では、普通のドキュメンタリーを読んでいるような感覚がある。これなら一般の読書人の心をとらえることができるだろう。
と思うと、新聞等のデータが並べれられて、歴史的な事実が積み重ねられて、息苦しく思えるような部分も挟まれている。からゆきさんをめぐるいくつかのエピソードが錯綜して、読みに迷うようなところもあった。
なにより、たくさんの事実を前にして、解釈を加えているように見えながら、事象の重さと多様性の前に行きはぐれてしまうような難解さが、森崎さんの本領だという気がする。
おキミさんと綾さんの親子の凄絶な姿が、著者との交流の様子を含めて、からゆきさんの悲劇として全編の軸となっている。一方、後半に紹介されているおヨシさんのエピソードは、それへの対抗軸となって一書の中で強く共振する。
おヨシさんは、「からゆきさん」として大陸に渡りながら、「日の丸を胸におさめた民間外交」の志をもって事業で成功を収めるものの、戦争という国の裏切りにあい、帰国後自死するのだ。
おキミさんもおヨシさんも、出身は天草である。異国に向かったものへの共感を失わない風土への、森崎さんの視線はあたたかい。海を渡った女たちと、彼女たちがそれぞれに抱いた「日の丸」に対しても。