大井川通信

大井川あたりの事ども

『民俗学の熱き日々』 鶴見太郎 2004

副題が「柳田国男とその後継者たち」の中公新書の一冊。20年近い積読ののちにようやく手に取った。

宮本常一柄谷行人の読書を通じて、柳田国男をもっと知りたいと思えたからだ。興味深い内容とあっさりとした書きぶりで、半日くらいで読み切ることができた。自分に残された時間から考えても、ワンテーマの新書なら、だらだら読み継ぐのではなくひとまとまりの読書でこなさないといけないだろう。これからの読書のモデルになりそうな読みができたのはうれしい。

やはり驚くのは、柳田という人の間口の広さ、仕事の大きさだ。公的な仕事をしながら、様々なグループとかかわり、新しい組織を立ち上げ、独自の学問を作った。そのあまりに独創的な姿勢から、その思想をまるごと引き継ぐような「弟子」を得ることはできなかったが、民俗学以外の様々な分野に影響を与え、「後継者」というべき人たちを残したというのが本書の結論だろう。

小さなエピソードだが、談話会で、国木田独歩らに外国文学の紹介をしたというのも面白いし、牧口常三郎が親しいメンバーだったというのも意外だった。

今西錦司桑原武夫梅棹忠夫中野重治花田清輝ら著名な学者、思想家らとの関係が取り上げられているばかりではなく、地道な実践者橋浦泰雄と詩人永瀬清子の業績にスポットライトを当てて論じているのが印象的だ。

今国際的にも評価が高まっている柄谷行人が、柳田から大きな影響を受け続けているというのも、こうした異分野での後継者たちに連なるものだろう。