大井川通信

大井川あたりの事ども

拍子木はどこで買えますか?(茶わん蒸し「吉宗」)

長崎市内の商店街を歩き、茶わん蒸しの専門店「吉宗(よっそう)」を目指す。妻のリクエストだったので、僕は前情報なしに来たのだが、江戸時代の商家のような立派な店構えで、行列ができている。

我が家の家風として名店は避けるし行列を待つようなこらえ性はないのだが、今回は他に目標もないので覚悟して待つことにすると、意外と早く15分くらいで順番になった。

玄関には番頭さんのような人が立っていて、家族で靴を脱ぐと、ピシャリと拍子木を打つ。あとで聞くと、お客さんが来たことを知らせる合図らしい。

二階に案内されると、広い座敷にお膳が並んでお客さんでにぎわっている。注文は、「一人前」という名称で、茶わん蒸しと蒸し寿司のセット(「夫婦蒸し」ともいうらしい)がやってくる。どちらも丼サイズの大きさだが、あっさりして食べやすい。

配膳に来た番頭さんに、妻が、さっきのカチンとたたく棒はどこで売っていますか?とたずねる。番頭さんは拍子木の説明をしたうえで、どこで売っているのか私にもわからない、長い事やっているがそんなことを聞かれたのは初めてです、ネットとかでみればわかりますよ、と親切に答えてくれる。

妻は本当に欲しくて、とっさに聞いたようだ。受け狙いとは思えない。それで長年勤めている老舗の番頭さんが初めて聞かれる質問になってしまう、というのは本当に別格の個性だろう。ある意味すごい才能だ。この個性のかたまりのような妻に、小さなことでいちいち腹を立ててもはじまらない、と反省する。

自宅に帰っても、よほど気に入ったらしく、妻は拍子木がほしいと言い続けている。あんなに大きな鋭い音を立てたら、耳の敏感な猫たちのストレスになるよといってあきらめさせる。