大井川通信

大井川あたりの事ども

尻もちをつく/背中をうつ

高校生の時に、年賀はがきを配達するアルバイトをした。子どもの頃に遊んだ近所の路地にくまなく入り込んで配達するのが面白かった。何年かしてから、その時仕事を教えてくれた郵便局職員のお兄さんの太って変わり果てた姿を見てショックを受けたことをなぜかよく覚えている。

当時はまだ雪が多かったから、一面の銀世界の中で配達している時、あるアパートの鉄製の外階段で足を滑らせて、腰と背中をしたたか打って滑り落ちたことがあった。とても痛かったが、その後も仕事を続けられたのだから大事ではなかったのだろう。

その二階建てアパートはずいぶん長く残っていて、帰省時などその外階段を見るたびに、子どもの頃の「滑落」事故を思い出した。今でも残っているかもしれないが、実家が無くなってしまった今、そのあたりを歩くことはないのだ。

そんなことを思い出したのは、今回、雨をたっぷり含んだ里山で、笑ってしまうくらい何度も足をすべらせて、しりもちをついたからだ。そのうちの二回は、そのまま背中を打ってあおむけに倒れた。

大人になったから転んで倒れるなんてことはめったにない。まして尻もちをついて背中を打ったりすることはないから、とても懐かしい感覚がよみがえった。一瞬宙を浮くような心もとない感覚があって、次にお尻や背中に鈍い衝撃が生じる。

鋭い痛みではないから、妙に心地よくもある。斜面を滑りながら倒れるのだから、衝撃も弱まっているし、抱きとめる土や泥の感触もコンクリートと鉄でできた街よりずっと優しいのだろう。

全身泥だらけになって山を下りる。昔の人は、こんなふうに土や泥とつきあいながら生活していたのだと考えながら。

 

 

ooigawa1212.hatenablog.com