大井川通信

大井川あたりの事ども

『変数人間』 フィリップ・K・ディック 1953

ハヤカワ文庫のデック短編傑作集の2冊目を読む。1冊目の『アジャストメント』はどれも粒ぞろいという印象だったが、今回は、ピンと来ずに〇△✕の三段階で✕をつける作品が多かった。僕のSF的な教養の乏しさが原因だとは思うが。

その中で、映画化もされた『ペイチェック』(1953)はテンポのよい展開でさすがに面白い。ただ、50年代の作品だからか政治と経済の支配権力に対する革命という設定がやや陳腐だし、「タイムミラー」と「タイムスクープ」のアイデアにも新鮮さはなかった。ラストのタイムスクープの現場が可視化される場面には、ちょっとドキッとした。

表題作の『変数人間』は、現代の職人的な手仕事の技術が、200年先の科学研究の分業が徹底した社会を救うという物語だが、平凡なはずの主人公の超人のような大活躍にややしらけてしまった。

この時代は全宇宙の情報を収集し、未来の出来事の正確な予測をするコンピュータの判断が政府を動かしている。ただ、新情報の入力が(文字で書かれた?)プレートを読み込ませるというアナログな方法なのが、今からみると違和感がある。そんな方法では、未来予測を可能にするような膨大な情報を集めることはできないだろう。安部公房の『第四間氷期』(1959)にも同じような場面があった。

コンピュータは、地球とその敵方との戦争における勝敗の確率を、新情報の入力に応じて、そのつど書き換えていく。これは今将棋の対戦などで実用化されているシステムと同じで、時代を先取りしていたことに感心する。

ということで、今回はあまりうまく読めなかった。いずれにしろ、こうしてたどたどしく各ジャンルの読書を積み重ねていこう。

 

ooigawa1212.hatenablog.com

 

ooigawa1212.hatenablog.com

 

ooigawa1212.hatenablog.com