大井川通信

大井川あたりの事ども

『涼宮ハルヒの憂鬱』 谷川流 2003

僕が生まれて初めて、唯一読んだライトノベルを再読する。

2006年のアニメの放送から10年遅れて視聴して、驚いて原作を読もうとシリーズを買い集めたものの読み終えたのは、この一冊きりだった。ライトノベルの癖が気になって読みにくかった記憶がある。

今回も、久しぶりにアニメと映画を見通して原作に戻ったのだが、はじめに『陰謀』を読んでならしておいたためなのか、小説として普通に面白く読めた。

アニメで後日談と一連の流れでみてしまうよりも、独立した作品としての良さがわかった。これ一冊として緊密な構成をもっていて、シリーズ全体の謎も伏線もすべて提出されているし、第一作の中で可能な限りそれらへの回答も書き込まれている。アニメでは省略されている状況説明、とくにSF的な設定の解説も文字として読めることもあって説得力がある。この原作第一作を読んではじめて、クリアーにハルヒの作品世界に納得がいく気がする。

長門や朝比奈さんや古泉という観察者たちを、ハルヒがSOS団に無意識に束ねてしまった経緯。3年前(この謎解きはシリーズの重要な伏線となる)という共通の起点を持ちながらも、三者が別様の立場で別様の解釈(しかしハルヒがとてつもない力をもっていることは共通)を繰り広げる面白さ。

三者が上述の解釈が机上の空論でないことを示すエピソードの強烈さ。特に長門のバックアップである朝倉の反乱はこの作品の前半の山場だ。大人版朝比奈さんの登場も、またそれ以上に古泉の閉鎖空間における神人退治も鮮烈だ。

彼ら三人に比べて、当たり前の高校生に過ぎないキョンの存在の意味合いが明確になるのがクライマックスのエピソードだ。三者三様の警告やアドバイスが、これから起きる事件への期待と不安を掻き立てる。

ハルヒによるキョンとの新世界建設ともいうべき壮大かつ荒唐無稽な場面のなかで、キョンハルヒによってさまざまな「属性」からではなく、愛情によって選ばれた対象であることが明らかになる。「ただの人間には興味ありません」というハルヒの自己紹介にもかかわらず、ハルヒにとってかけがえのない存在は、平凡なクラスメイトの他者性の中に見出されたのだ。

しかし、それだけでなく、そのハルヒの気持ちに引きずられるように(模倣欲望)生じた長門と朝比奈さんの愛情にも触れられており、これがこの先のシリーズ展開の重要な伏線にもなる、という実に見事な構成だ。

この機会に、シリーズ全巻を楽しんで読んでみたいと思う。

 

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