「カナ・カヌボ」は、ネパールの一番普通の挨拶で、「ごはん食べた?」という意味らしい。厳密に言えば、食事前の時間帯によりふさわしい挨拶なのだろうけれど、それにこだわらなくてもよさそうだ。
お腹が人間の基本。お腹がいっぱいなら幸せな気分がすいて、お腹がペコペコになったら命を落としてしまう。ごはん食べてる?お腹は大丈夫?というは、他者に対する一番基本的な気づかいだ。それが日常の挨拶になっているのは、とても暖かい文化であるような気がする。
「カナ」は、食事。だから、ネパール料理は「ネパリ・カナ」となる。ネパール料理の定番は「ダルバート」だ。「ダルバート・ディノス」で、ダルバートをください。「ダルバート・チャ」で、ダルバートありますか?。
「モタウヌボ」も、日常的なあいさつで、「太りましたね」という意味。僕の観光用ネパール語の本では、女性に対してもほめ言葉だと断言している。ごはんが食べられていることが一番大切という価値観とつながっている気がする。
コンビニの商品整理をしている新顔の男性に、「モタウヌボ」と話しかけると、マッチョポーズで応じてくれた。同じカタカナ発音でも「カナ・カヌボ」より通じやすい印象。これはいい。
調子にのった僕は、別のコンビニでレジをしている若い女性の一人に「モタウヌボ」と声をかける。すると、並びのレジの女性まで一斉に笑いながら「言われちゃったね」という仕草をする。僕はあせってごめんなさいという表情をすると、大丈夫というジェスチャーで返してくれる。険悪な感じはない。
僕のテキストは20年前の本だ。若い世代には外国文化の影響で「やせている」見た目を重視する価値観が浸透しているのかもしれない。しかし日本人のように太ること自体への嫌悪感があるようでもない。短いやり取りの中に、その微妙なバランスが見て取れた。単なる誤解や早とちりかもしれないけれど。