大井川通信

大井川あたりの事ども

平等寺の歌姫

田中好さんからメールがあって、ひさのの住人ハツヨさんが亡くなったという。ちょうど一週間ばかり前にお伺いしたときに、眠りの合間に少しだけ声を聞いたところだった。

ハツヨさんは、大正3年(1914年)の104歳。昭和初めの頃の村の盆踊りでは、声のよく通るハツヨさんは歌姫として、なくてはならない存在だったそうだ。平等寺のひばりとも言われたらしい。

その頃、村にマモルさんという青年がいて、器量よしのハツヨさんに夢中になって、さんざん追いかけまわされたけれど、相手にしなかったとハツヨさんは楽しそうに話してくれた。マモルさんは馬車引きになって、ずいぶん若いうちに亡くなったらしい。

平等寺にはミロク山という姿のいい山がある。山上にはオダイシサマを祭った大きな岩があって、村人たちの暮らしを見下ろしている。村人たちが亡くなると、きっと魂はミロク山に帰るのだろう。

80年以上、山の上で待ちくたびれていたマモルさんは、今頃ハツヨさんにうまく言葉をかけているのだろうか。