大井川通信

大井川あたりの事ども

安部さんからのメール

安部さんは、僕のブログの数少ない毎日の読者だ。有名人でもないかぎり他人の日録など誰も興味をもたないし、親しい知人であっても、よほどの文章家でもないかぎり、こざこざした文を読みたいとは思わない。現に僕自身がそうだ。

安部さんは、僕などとは違い、自由自在に文章に浸れる人だ。それで日課として、僕のブログを開いてくれるようになったのだと思う。どこかで安部さんに恥ずかしくないもの、できれば面白いと思ってもらえるものを書こうと努めているところがある。ただ20年来の付き合いの中で、直接ほめてくれることはめったにない。大人同士のつきあいは、たいていそんなものだけれども。

だから、5月にブログの感想をこんな風に送ってくれたことはうれしかった。三年前に勉強会で「玉乃井の秘密」の台本を披露したときには、セリフが言いにくい、という不満を聞いただけだったので。

 

「玉乃井の秘密」なかなかですね。現実の場所やできごとを織り込みつつの展開は久生十蘭を思い起こさせますね。最後の「時間の停止した空間、空間の消滅した時間」、はみごとですね。こういうふうに語られたのを読んだのはおそらく初めてです。時間や空間の概念のつかみ方がちょっとわかりやすくなった気がします。「玉乃井展」も来月には開きたいと思ってますが・・・

 

久生十蘭の名前を出したのは、安部さんの慧眼だ。実は、「玉乃井の秘密」には、ちょうどその時読んでいた十蘭の『地底獣国』を参考にした部分がある。

玉乃井を舞台にした台本を今回ブログに載せたのは、安部さんの「玉乃井展」とつなげたいという思いがあった。安部さんもそこに反応してくれたのだと思う。

先日「玉乃井展」の最終日に、玉乃井を訪問した。展示期間中は、安部さんの従兄が管理人を引き受けている。この20年間、当たり前のように玉乃井に出入りしていたので、これからはそれが難しくなることの実感がわかない。玉乃井の地中深く「永遠に語らい続ける僕たち」という芝居の最後のイメージは、今読むと、希望であり慰めであるように思える。

安部さんが先月はじめに倒れてから、もう一か月が経つ。それ以降のブログは、安部さんの目に触れていない。「玉乃井展」の感想を読んでもらう日が来ることを願っている。

 

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