大井川通信

大井川あたりの事ども

『地の底の笑い声』 上野英信 1967

上野英信の『追われゆく坑夫たち』は何度か読み返したが、同じ岩波新書の本書は、長く積読のままだった。ドキュメンタリーの迫力は前書にあるが、当時から半世紀以上が過ぎて、どこか遠いよその国のことのように感じられるところは否めない。

笑い話を通じてさらに明治・大正時代の炭坑の現実にまでさかのぼり、語りに凝縮された体験から人間の真実を見出すという本書の方が、作品としての生命力をより強くもっているかもしれない。

地底の坑夫たちの物語を読んだ後で、大井の里山の奥深くの炭坑跡の坑口を訪ねてみた。冬の内にアクセス路を確保し、できたら周囲に手を入れてみたいと思っていたのだ。谷沿いは、猪のワナがしかけてあり、枯れた竹によってふさがれているので、峰の上を迂回して進む。なんとか斜面を下りるが、歩きやすい道ではない。

坑口にかぶさる雑木や竹を切り、周囲の倒れた竹を移動させる。目印となる近くの大きなヒノキの根元に拾ったボタを置いて、坑口への道案内とする。

坑口は、半ば朽ちかけた台形に組んだ坑木の三つ目の先で厚いコンクリートにふさがれている。この先に斜坑が地中深くまで伸びて、その先に採炭を行うキリハがあったのだろう。僕はその闇の向うに眼をこらした。