もともと薄い本だけれども、解説の漫画のページも多く、実質は100頁にも満たないのではないか。しかし、生物学者である著者の研究論文をベースにしているだけに、その内容は濃く、とてつもなく面白い。
このセミの存在やこの本のことはうすうす知っていたが、今までなんとなくスルーしていたのは悔やまれる。セミ好きで、セミをネタにした話が好きな人間として、これは重大な見落としであり、怠慢だった。
この本のとてつもない面白さはどこにあるのか。
まず、アメリカに生息する17年ゼミ(著者は素数ゼミと命名)のあまりに奇妙な振舞いである。日本のセミだって、相当に不思議だ。なぜ地中に長く住むのか。なぜクマゼミは生息域を広げているのか。これらの問いに、僕はひきつけられた。
一方、正確に17年ないし13年に一度だけ、特定の狭い地域だけで大量発生するセミというのは、日本のセミとは次元の違う不思議さを感じる。たとえば、17年ゼミであれば、全米に12の地域グループがあって、特定の年にはその場所だけで成虫のセミが発生する。17年で12グループというわけだから、17年の内5年間は、アメリカのどこでもこのセミは姿を見せないのだ。
なぜ、そんなに長く地中にいるのか。なぜ、それが17年と13年なのか。
何よりこの本のすごいところは、この奇妙な振舞いについて、見事に納得のいく答えを導き出している点だ。完膚なきまでに明快な答えをだ。
種明かしは、この薄くて濃い本に譲るが、ポイントは二点である。氷河時代の存在と、素数という特別な数字の最小公倍数が大きいという特徴だ。最小公倍数が大きいということは、他の周期のセミと偶然出会うチャンスが少ないということになる。
この二点をめぐって、セミが生き残るために取った任意の戦略という説明ではなく、こういう奇妙な条件にあてはまるセミだけが生き残ったという理屈が本当に面白く、説得力があるのだ。