休日の夕方、ほとんど期待もなく、大井を歩く。もう暗くなるし、単眼鏡をもってはいても、鳥を見る機会もないだろう。マスマルの集落をぐるっと回っているときだ。
道路わきには、消防用水のための小さな池があって、汚い水がたまっている。周囲は鉄条網で囲われ、四面も底もコンクリートで固められている人工物だから、今まで中を気にしたことがなかった。せいぜい、ミズスマシがいるくらいだろうと。
それがふと、気になってのぞいてみた。水はドロッと汚れた感じにたまっている。しかしよく見ると、素早く水面に姿を現すものがいる。それもかなりの数。その泳ぎから、見間違えようのない、ハイイロゲンゴロウだ。
夏場に大井の田んぼや、田んぼ脇の水たまりに出現するハイイロゲンゴロウが、その他の時期にどこで生息しているのか疑問だった。小さなため池はいくつかあるが、やや遠方だ。夏場だって、田んぼは定期的に水抜きされる。
消防用水は盲点だった。いくらハイイロゲンゴロウが命強いとはいえ、コンクリート製の水槽の中で生活できるとは思えなかったのだ。5月初旬に活発に活動している個体だから、おそらく冬越ししてきた成虫にちがいない。来年はもっと早くから観察したいと思った。
すると、コンクリート製の消防用水は、大井だけでもあと二か所はあったことを思い出す。足早に公民館まで歩いて、その脇のやや小ぶりな消防用水をのぞくと、数は少ないがハイイロゲンゴロウの姿を見つけることができた。和歌神社の入り口の消防用水では、もう水面が暗くなっているせいもあって見ることはできなかった。
消防用水にいるくらいなら、むしろここでは神社の池の方にいるはずだ。人間の水利の利用と自然の加工に生息環境を失いながらも、なんとかしぶとく生き抜いてきたハイイロゲンゴロウ。わずかに残された水のありかを巧みに利用する姿にあらためて感心する。