to R mansion を観るのは、およそ10年ぶりだ。旧銀行の小さな劇場で、身近にめいっぱい元気で楽しい舞台を観たことを覚えている。小劇場を初めて体験した長男が衝撃を受けていた。
今回の公演のフライヤーでも、「光と闇のステージアート」をうたっていて、「シアトリカルマイム、演劇、ダンス、マジック、オブジェなど様々な身体表現を使って、不思議いっぱい、ユーモアたっぷりにアンデルセンの名作を描きます」と解説してある。
実際に客席も小さな子どもたちが中心で、大人は引率の親がいるくらいだ。客席の反応からみても、子どもたちも十分に楽しんでいたのではないかと思う。僕もすっかり魅了された。少し前に見た地元の劇団の中途半端な芝居に比べても、はるかに充実した観劇体験だったと思う。
舞台の楽しさ、面白さとは何だろう。舞台上で行われていることがわかりやすく、感情移入が容易でないといけないだろう。たとえば、棒立ちの役者がちぐはぐなセリフをやり取りしていても、その世界に入っていけない。人魚が人間とどうやって結ばれるかという簡明なストーリーが活きていた。
出演者たちが身体をフルに使った魅力あるダンスや動きをしていることも、観客をひきつける要因だろう。それと連動して、斬新な場面と場面転換を作る。この舞台では、人魚の海と人間の陸という二つの世界を見事に描き分けて目を奪われた。
薄い布で海原を表すように必要最小限の簡単な舞台装置を使うこともあれば、複数のダンスや身体の組み合わせで海中の世界を表現することもある。
首のないキャラクターが、相手の腕をつかむことで腹話術のように相手の口を借りて会話するというコミカルなシーンがあった。似た技として、言葉を失った人魚のジェスチャーをみながら、相手が彼女の気持ちを言葉にかえるシーン。場面に沸き立つような活気が出て、子どもたちにも大うけしていた。
とにかく使えるものは何でも使って、個々の場面を楽しく魅力あるものにして、なおかつ全体としての流れや勢いを大切にする舞台づくりがされていたように思う。
10年前に一回見ただけなのに、メンバーの3人をはっきりと覚えていた。役者としてのキャラが立っているということなのだろう。