カラスが何羽か集まっている木に近づいても、逃げようとしないカラスがいる。カンタロウかと思ったが、どうみても小柄で、おでこのでっぱりもないハシボソガラスだ。毛並み(?)も黒々として立派なカンタロウと比べると、どこか貧相だ。
それにしても人懐こい。近くで見つめても、同じ枝の枯れ枝をつついたり、こちらを見返したりする。これで鳴きまねができれば、カンタロウもどきくらいには昇格できるのだが。しかし僕が小声で(周囲の人を気にして)鳴いても、つられて鳴くことはない。
すると、木の幹をつついて、5センチくらいの長方形の木の皮を落としてくる。そういうことならと、僕もおおげさな身振りでそれをひろいにいく。
さらに、もう一片。ひらひらと落ちる木の皮をもう少しでキャッチできそうだった。するとまた、三枚目の木の皮を剥がして落としてくれる。
これは、どう考えても「攻撃」や「威嚇」の意図からではない。木の皮を落とした後も、同じ場所でくつろいで枯れ枝の破れに食いついているのだから。
落下する木の皮を拾おうとする人間に興味をもって、からかって遊んでいるとしか思えない、ゆるい空気感だ。
しかしどんなに人懐こくても、枝の下からじっと見つめる人間を本能的に警戒の対象としないカラスはいないだろう。最初から僕を警戒しないのは、かつての僕とのやり取りを記憶しているカラスの可能性が高い。僕もカンタロウを探すために、かなりの数のカラスにちょっかいをかけてきたのだ。
カラスに関しては悩みがつきないが、あれこれ推理しているのも楽しい時間だ。