大井川通信

大井川あたりの事ども

映画『杜人(もりびと)』を観る

老人ホームひさのの田中好さんから誘われて、田中さんの地元の公民館の上映会に出かけた。余裕をもって出かけたつもりだったけれど、公民館の駐車場は満車の盛況で、吉田あつこさん(大井のひろちゃんの娘さん)と村瀨孝生さんの息子さんが駐車場整理をしている。僕には、なかなかシュールな風景だ。

映画は造園業を営む「環境再生医」矢野智徳さんの取組を数年間にわたって追ったドキュメンタリーで、見ごたえがあった。何より矢野さんの実践が、明確かつ一貫していて、説得力がある。言葉は哲学者のように繊細で正確だ。

環境の再生のために、何より土地を生き返らせる必要がある。そのために土地の呼吸の回復が急務だ。その場合に、水の循環とともに、空気(風)の循環という視点を強調しているのが、僕には耳新しかった。雑草を根絶やしにするのでなく、風の通り道を作るように刈ればいいという。そうすれば草も暴れ出すことがなく、周辺の植物の生態系も安定する。

こうした土地の呼吸の回復の取組は、小さな敷地でも実践することができる。自宅の庭での取組の効果は微小だろうが、関わった人間の考え方を変え、人と自然とのかかわりの仕方を変えていくだろう。これは小さなことではない。

田中さんと吉田さんは、北九州でこの映画と出会い、山梨での矢野さんの講座に実際に参加した上で、今回の上映会を企画したようだ。朝昼晩3回の上映会も完売だという。施設の運営に多忙を極める中で、よいと思ったものに果敢に飛び込むという行動力には頭が下がる。僕も、フラフラして牧のうどんで尻もちをついている場合ではない。

映画の中で紹介された大がかりな現場は、東北の禅寺と新宗教系の団体の敷地の工事だった。杜(大事に使うことを神に誓った土地)という考え方は、かつては、全国の鎮守の杜を中心に偏在していたのだろうが、現在ある程度のコストをかけて実践できるのは、現役の宗教団体くらいかもしれない。

今は何かと評判が悪く、世間の揶揄の対象にされがちな宗教(新宗教)だが、大地の回復に向けての足場となっているのは興味深い。