大井川通信

大井川あたりの事ども

「カタストロフが訪れなかった場所」 SECOND PLANET 2024

OVERGROUND  Gallery 2(福岡市美野島)を会場とするセカンド・プラネットのインスタレーション。5年前、小倉で展開した作品を再構成した展示で、以前外田さんからはそのコンセプトと概略を聞いていたので、ある程度内容を予想して会場を訪れた。ところが予想をはるかに超える衝撃を受けることになる。

薄暗い古い倉庫のような一室に、いくつもの音響装置と脚立の上の映写装置が雑然と置かれている。パイプ椅子が6脚。業務用の扇風機。意図的な感じやこれ見よがしのものは一切ない。圧倒的な裏方感。

正面の壁面に小さく映写されるのは、8月9日に原爆を投下することになる米軍の爆撃機B29に関連したリアルタイムの情報だ。前日の21時に爆弾の積み込みがはじまってから、当日の9時44分に小倉上空に到着し、10時32分に第二目標地長崎に進路を変更するまでの10枚余りのスライドが、一定の間隔をおいて映写される。ちなみに原爆投下のラストには白紙のスライドが映し出されて、やがてまた最初の情報が繰り返される。

スライドの切り替えとも連動して一定の機械音や異音が断続しているが、何かの効果音というより、作業工程に伴う無機的な音が響いているという印象だ。

時間的には圧縮されているが、スライドの情報は、原爆投下というクライマックスに至るプロセスには多くの手続きがあって、それらが人々によって規律正しく担われたという事実を突きつけてくる。クルーの打ち合わせや、関連機体の離陸、飛行ポイントの確認。その非情で機械的な手続きの中に、小倉の原爆投下というシナリオも書き込まれていたのだ。

5年前の作品では、B29の通信情報がSNSで発信されたという。それを小倉という土地で体験した場合、街の上空全体が緊張感で覆われるような事態が生じただろう。博多での作品には当然ながらそこまでの切迫感は期待できない。にもかかわらず、このぶっきらぼうな道具立ての室内には、名状しがたい力がみなぎっていて、容易に離れがたい魅力がある。それはなぜなのか、考え込まざるをえなかった。

すると、この室内が病院の待合室に似ていることに気づいた。特に重篤の症状を扱うがんセンターなどの病院の待合室に。診察の順番待ちのように、一方的に示される断片的な情報によって高まる不安の感情を抱えながら、しかしその場を逃げ出すわけにはいかない。作業の進捗を示す掲示板から目を離すわけにはいかないのだ。ここでは誰も部外者(観察者)を装うことはできない。

小倉というリアルな土地から移動することで、かえってギャラリーの一室に不在のカタストロフに侵食される空間をつかまえることができたのだろう。コンセプトと場所が一体となって身体を包み込む強度をもった空間体験は、僕の数少ない現代美術との関わりのなかでは、ほとんど記憶にないことだ。

 

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