ワクチンの副反応で、関節痛がして体調がよくない。自宅で静養していても、本を読んだりする集中力がない。ふと思いついて、ネットで映画を観ることにした。映画のビデオなら特別な集中力がいらないし、体調の不調を一時忘れることもできるだろう。
ネットの契約でたくさんの映画を観ることができるのだが、このところ映画のビデオを観るという習慣を失っている。もともと小説を読むよりずっと僕には近しい行為だったのだけど。
なんとなく直感で『ライフ』という2017年公開のSF映画を選んだ。地球を周回する軌道上の宇宙ステーションが舞台。そこに火星から生命を含んだ土壌のサンプルが届けられる。以下ネタバレあり。初めクルーは宇宙生命という歴史的な発見に喜ぶが、その生命体は急速に成長し狂暴化して、一人一人の命を奪っていく。
宇宙ステーションという密室の中で、限られた空気、水、燃料という生存条件が失われていき、人間の劣勢が明らかになる。最後の砦は、この外敵を地球に侵入させないこと。そのために残された二人は自己犠牲的な決断をする。その試みが成功したかに思えてホッとした瞬間、SFホラーで定番のどんでん返しがある。
いつかどこかで見たことがあるような定番のストーリー展開は地味だけれども、王道の良さはある。宇宙ステーション内部の無重力の様子や機材などが、従来になくリアルに撮られているのが売りかもしれない。カメラは、常に物語の核心の場面を写してくれるから、観る側はその臨場感から気持ちをそらすことができない。
暗く絶望的な「密室」の中に観る者を閉じ込めて、気持ちを覚めさせないことに全力をあげているといえる。脱出用の宇宙船の発射という場面のあとで、初めてカメラは場面の核心から遠ざかるが、解放の気分にひたる観客には、それが不自然には感じられない。そこに、最後のどんでん返しを仕込む余地が生じるのだ。