大井川通信

大井川あたりの事ども

国土をなぞる

福岡空港から羽田まで、なめるように国土を見下ろし続けた。翼が邪魔にならない前方の窓側の席で気象条件もよかったからだが、ここまでしたのは初めてのような気がする。定年で精神的に余裕が出たせいかもしれない。東京の書店で大判の日本地図を買って、さっそく今見た地形や街を確認してみたほどだった。

福岡空港から急角度で飛び立つと、すぐに眼下は太宰府の街になる。宝満山国立博物館をみながら、機体は南へ。進路を西に変じると、石灰岩を削り取られた香春岳が、白く輝くコップみたいに覗けるなか、英彦山の頭上をすぎるとすぐに、大分の国東半島が現れる。谷が周囲に走る先には、国見の街と姫島が見える。

四国に渡ると、松山の街が眼下におさまる。機長からの高度8800メートル、巡航速度850キロのアナウンスに、エベレストの山頂はこんなに高いのかと感心する。高松に近づくと、真下には讃岐山脈吉野川が並んでいて、まるで地図をみているよう。小豆島では、エンジェルロードの小湾までがはっきり見えた。

淡路島の上空を過ぎると、大阪湾が一望のもとに。この高さだと関西国際空港にも人気が感じられない。仁徳天皇賞を見下ろしつつ、奈良の山中から伊勢に抜ける。渥美半島の長い海岸線に浜名湖天竜川と続き、御前崎を過ぎると、本家の大井川河口が確認できる。

伊豆半島の沖を通るが、陸には雲があって富士は見えない。伊豆大島上空を横切ると、三原山は雲がかかっているが、波浮の港はくっきり見えた。そのまま房総半島の上空に入ると、富津岬、東京アクアラインを見ながら、東京湾を渡って羽田へ着く。

書店のカフェで食い入るように買ったばかりの日本地図を見ていると、中年男性から肩を叩かれた。財布が椅子の下に落ちているのを教えてくれたのだ。用心。用心。