大井川通信

大井川あたりの事ども

カラスと会話する(一日目)

職場の前の都市公園を散歩しながら、調子よく光太郎や朔太郎の詩を吟じていると、すぐ目の前の枝にカラスが飛んできてとまった。三メートルくらい先の低い枝で、人なれしている都会のカラスでもふつうなら逃げ出すような距離だ。

はじめカラスが普通に鳴いたので、その声まねを何回かしてみる。身体のごついハシブトガラスだが、首をひねりながら何かを思案している様子なのはかわいい。どこかあどけないからまだ若い個体なのだろう。

するとカラスは、喉をならすようにグルグル、グルグルと小さい声で二声鳴く。僕も下からまっすぐカラスを見上げながら、喉をならしてグルグルをに二回やる。そのやりとりを何回も何回も繰り返した。

今度は、カラスは、グルグルの鳴き声の回数を変えてくる。三回、四回、五回、次に一回。僕は忠実にその回数どおりに鳴きまねをやる。カラスは明らかに、僕の鳴きまねを待ってそれを確認してから、つぎの発声に移る。同じリズムでのやり取りが、何十回も続くので、僕はすっかり会話しているような気持ちになった。

さすがに飽きたのだろうか。カラスが一段上の枝に飛び移ったので、僕はその場を去ることにした。

しかしカラスは、僕の背中に向けて、今度はクワッ、クワッと高い声で鳴いてきた。僕は歩きながら、クワッ、クワッと鳴きまねをやる。だいぶ離れて姿はとっくに見えなくなっても、クワックワッの声が聞こえるたびに、僕はやけになってクワックワッをやり続けた。