大井川通信

大井川あたりの事ども

カラスな男

僕の職場は、駅前を出て、都市公園の散策路を歩いて通えるようになっている。いったんカラスの姿を見かけなくなった都市公園も、朝にはカラスが集まるようで、カラスの鳴き声が飛び交っている。

その鳴き声の中に、少し違和感のある声が交っているのに気づいた。

スーツ姿の勤め人が足早に歩く中に、汚れたジャージ姿であるく老人がいる。帽子からは白髪が飛び出していて、こころもち身体を傾けて歩いている。どうやら、彼が時々カラスの鳴きまねをしているようだ。これにはちょっと驚かされた。

僕はカラスの鳴きまねで、カンタロウとコミュニケーションを図るようになったが、実際に鳴きまねをしている人に会うのは初めてだ。しかも、鳴きまねの初心者が聞いても相当にうまい。ただ、何らかの狙いがあって鳴きまねをしているというよりも、カラスの大声に自然と反応してしまっているような気がする。

おそらく、もはや鳴きまねですらないのだろう。カラスが群れに反応して鳴くように、彼もたんに鳴いているのだ。すでにカラスになってしまった男が、はたして今でも人間の言葉を解するかどうか不明である。