大井川通信

大井川あたりの事ども

笠仏さま

笠仏(かさぼとけ)さまの絵本の製作が、頓挫している。聞き取りができたのが、4年前。3年前には、簡単な絵コンテを妻に渡した。妻が実際に絵を描いたのは、その1年後だが、その時には僕も気乗りがしなくなっていて、妻の絵を2年間放置している。

大井の隣村の平井を歩いているとき、田んぼの脇に、奇妙な石のかたまりを見つけたのが事の始めだった。当時は、近所を歩き始めたばかりの頃で、道端の庚申塔を見つけるのが楽しかったのだ。

そこには無造作に大きな石がいくつも寄せてあって、動かないように足元はコンクリートで固めてある。庚申塔らしき長方形の自然石もいくつかあるが、よく見ると、仏様の姿が各面に彫られた六角形の石が二つある。よほど古いものなのか、表情などの細部は摩耗して、かろうじて姿だけが浮彫りになっている。六角形の石の頭にかぶせる傘のような円い石も下ろされて、地面に固定されているのだ。

六角地蔵というのは、すぐにわかった。しかし、信仰されている様子はない。八波川に沿って上流の村山田地区では、古い石塔を大切に祭ってある。平井地区は、駅のすぐ目の前であり開発が進んだことが影響しているのだろうか。

後日、そのあたりの小字名が「笠仏」というのを知って、この古い石塔の残骸のことが結びついた。驚くとともに、地名の由来にしてはあまりに邪険な扱いがいっそう不思議に思えた。

あとは、地元の人から聞き取りができればいい。その機会は意外と早く訪れた。八並川沿いの道で、腰の曲がった老婦人が犬の散歩をしている。ダメモトで声をかけると、なんと石仏のある田んぼの所有者の方だった。昭和8年生まれのその人から、ようやく笠仏様のいわれを聞くことができたのだ。