三年半ばかり前に現代美術展の会場となった筑豊市場に、ひさしぶりに寄ってみた。市場隣の老舗の喫茶店「らんぶる」で、モーニングを食べる目的もある。年配のご夫婦が、格安で甘い卵焼きのサンドイッチを出してくれるのだ。
僕は、商店街を舞台にしたアート作品や演劇をいくつか見てきたが、あまりいい印象をもてなかった。商店街の方も活性化の手段として利用しているわけだから、お互い様なのだろうが、アートが商店街の歴史の上澄みをすくっているだけに思えたのだ。その場限りのこととして。宴の後の商店街の衰退を見続けると、その思いを強くする。
木造の筑豊市場の通路は暗く、一店舗も開いていない。通りかかったご婦人に聞くと、平日は数軒は店を開けているという。喫茶らんぶるも閉まっていて、ネットで調べるとすでに一昨年に閉店したらしい。
なじみの黄金市場に来ると、こちらも日曜で大半の店がシャッターを下ろしていたが、通路で雑貨を広げて売っている人もいて多少の賑わいはある。僕の中学時代のヒット曲「無縁坂」が流れている。なんもかんもたいへんのおじさんの「店」も今日はやっていないが、栄養ドリンクの箱にメモをつけて差し入れておく。
二年前、初めておじさんと知り合ったときには、隣町に新しいディスカウントストアーができるので「黄金市場はいよいよ危ない」 という口上を繰り返していた。けれど、実際に市場にダメージを与えたのは、隣接する古いスーパーが同時期に閉店したことの方だったようだ。
スーパーは市場では手に入らない商品も広く扱っているから、両方で買い物することで市場を補完する機能があった。市場単体では、集客に限界がある。隣町の安売り店や大通りをはさんだ大手のスーパーで買い物を済ませてしまう人が増えたのだろう。
いつもの和菓子屋に顔を出すと、目当ての季節の大福はなかったので、桜餅を買って帰った。