大井川通信

大井川あたりの事ども

ハンガーの話

クリーニング店のビニールハンガーを再利用するものだから、ちょっと気を抜くと家にハンガーがあふれるようになり、定期的に処分しなければならない。よく見ると、木製ハンガーの中には、ずいぶんと古いものがある。そこには義母の名前がペンで書かれたものもあれば、僕の父親のイニシャルが書き込まれたハンガーもある。

昔は、名前を書くくらいハンガーが貴重なものだったのだろうか。おそらく、職場で使うために自分の記名が必要だったのだろう。

今では死語になっているが、「えもんかけ(衣紋掛け)」という呼び方を両親がしていたのが耳に残っている。僕が小学生の頃、プロ野球を見始めた時のあこがれの選手は、巨人軍の高橋一三(1946-2015)だった。いわゆるいかり肩で両肩がはっており、「えもんかけ」があだ名だったというから、1970年前後はまだこの言葉は一般的だったのだろう。

父親の字体で几帳面に書き込まれたイニシャルをながめていたら、父親の立ち居振る舞いや仕草がよみがえるようで、懐かしくなった。写真を見ても起きなかった感情だ。

父親は55歳で当時のリッカーミシンを定年退職したあと、5年間嘱託職員として勤務してから、68歳まで大國魂神社で働いていた。僕も養生して、少なくとも68歳まで働こう、なんて初めて思う。