大井川通信

大井川あたりの事ども

二つの美術館

久しぶりにブリジストン美術館に行こうとしたら、あたらしい建物に入って名前も変わったいた。都会のど真ん中の新築のビルの5階くらいまでを占有していて、それより上階の高層棟はまったくの別のビルように見える。名前は、アーティゾン美術館。

大きなガラスの箱のような外観からはわからなかったが、美術館の一角に模型が設置してあるので、建物の設計コンセプトが理解できた。分厚い板のフロアを何枚か重ねて、それを太い円柱でつないでいる建物だ。玄関前は大きな吹き抜けの空間になっているし、各フロアとも壁や柵のようなものはなく、全面をガラスで囲っているだけだから、都会の街路に滑り落ちてしまいそうな緊張感がある。

たまたま隣の敷地が建設工事中で、地下5階くらいまで地面が掘り返されているから、そこをのぞき込むと、いっそうの落差の恐怖を感じた。美術作品も、巨大なスケールの街並みと接続した空間において鑑賞しなければいけないということだろうか。

特別展の大きな写真作品と、ブリジストン美術館時代からの名品は、この過酷な空間にも負けてはいない感じはした。東京駅の表玄関に陣取る美術館の構えとして、この選択は間違っていないような気もする。

翌日、東京郊外の府中美術館に出かける。こちらも分厚いフロアーを支える円柱と、外部空間への接続というコンセプトでは、アーティゾン美術館のコンセプトとそれほど違った建物ではないのかもしれない。しかし、この建物は公園の森の樹木に囲まれているから、およそ空間の印象はちがう。

特別展も「ただいま  やさしき明治」という明治の日本の姿を同時代の画家が写し取った作品展。真夏の日差しも緑にさえぎられて、おだやかな空間を演出していた。