大井川通信

大井川あたりの事ども

『カニは横に歩く』 角岡伸彦 2010

副題には「自立障害者たちの半世紀」とある。500ページのドキュメンタリーで読みごたえ充分だった。僕も個人的な理由から、自分自身の生き方を振り返らざるをえないような読書体験になった。

著者の角岡信彦氏(1963~)は僕とほぼ同世代。処女作の『被差別部落の青春』(1999)は面白く読んだし、人権関連の講演を聞いた時も好印象だった。同和問題(硬直した発想が幅を利かしがちだ)にかかわりながら、ずいぶん柔軟なモノの見方ができるなと関心していて、漠然と世代の問題なのかと思っていた。

この本に気づいたのは、ずいぶん後になってからで、原体験としてラディカルな障害者運動として著名な「青い芝の会」とそこでの自立障害者とのディープなかかわりがあったことを知り、なるほどなと納得できた。

本作では、原一男監督の『さようならCP』の上映会(1972年)をきっかけに立ち上がった関西の脳性麻痺の障害をもつ当事者たちが、組織を立ち上げて社会に戦いを挑み、「健全者」を介護や運動に巻き込ながら、自立生活を実現させていった経緯が克明に描かれている。

著者自身が、学生時代に彼らの介護に入って以来、27年にわたる付き合いの中で描いているだけに、単なる運動史にはなっておらず、主要メンバーの生き方にピタリと焦点を絞った記述はリアルで、説得力がある。

主要メンバーを単に英雄にして賛美するのでも、あるいは欠点や問題点をあげつらうのでもない。複雑な人格と行動の矛盾をまるごと受け止め、共に生きた時間を描きつくそうとする志が感じられる。95年に阪神淡路大震災に向き合う場面は劇的だ。

僕も学生時代、東京多摩地区の自立障害者たちと出会い、彼ら彼女らの運動にいくらかかかわりをもった。アパートを借りて介護者を自力で集めて生活していた障害者たちの姿が、本書の記述と二重写しとなる。ただ、当時すでに青い芝の会のような健常者や行政を敵視する考えはあまり表では語られなくなっていたような気がする。

無償のボランティアによる介護から、行政の補助による有償介護へ。そして、支援費制度による自立生活の制度化へ。僕自身はかかわりをもたなかったその後の運動の展開や行政施策の激変も説明されていて、とても勉強になった。

 

ooigawa1212.hatenablog.com