大井川通信

大井川あたりの事ども

グエン君の替え玉

知り合いの奥さんが事故で亡くなった。奥さんとは面識はなかったが、だんなさんの方は30年近い付き合いで、いろいろお世話になっている。通夜や告別式は奥さんの関係者だけで終えたということだったが、自宅に弔問に出かけた。

午後から仕事を休んで、近くのバス停で降りると、先に昼食をとっておくことにした。長浜御殿という屋号の長浜ラーメンのお店がある。あとから調べると、人気店らしく実際に美味しかった。以前何度か食べた本家の長浜ラーメンは好きでなかったのだが、ここならリピーターになってもよい。

ただ、お店の中でちょっとした事件があった。カウンターでラーメンを固めんで注文すると、すぐに提供されたのだが、食べようとするまえに、カウンター越しにさらに麺がどんぶりに追加されたのだ。これがこの店の調理の仕上げの流儀なのかと思ったが、それにしても変だ。

僕の席の近くにいた店長らしき人が、「グエン君、グエン君」と慌てて声をかける。調理場の外国人グエン君が、僕を替え玉客と間違えたらしい。店長はラーメンを出しなおそうとしてくれたが、僕はこれで食べるからいいと断った。食べている最中に、グエン君も謝りにきた。

美味しかったこともあり、僕は替え玉を足された大盛ラーメンを完食した。替え玉分の料金を払うつもりだったが、店主はラーメン一杯分の料金しかとらなかった。なるほど、店側からしてみれば、客が注文もしていない替え玉の代金を取るわけにはいかないだろう。グエン君の勘違いのおかげで、僕はもうけた気持ちになった。

弔問を済ませたあとに、近所の氏神にお参りした。急な石段の上の樹木が覆いかぶさった秘密基地のような鎮守の杜で、境内には生き物のような庚申塔が祭られて、雰囲気のよい場所だ。知り合いの奥さんの冥福を祈ってから、バスにのって帰る。

 

追記:実はあまり食欲がなかったので、軽めの昼飯をとろうと思っていたが、周囲にラーメン屋しかなかったのだ。そこへ大盛ラーメンを無理に食べたために、この夜にはお腹を壊して苦しむはめになった。禍福はあざなえる縄の如し。