大井川通信

大井川あたりの事ども

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

半額弁当の愉楽

ある全国紙の地方版に、こんな記事を見つけた。スーパーの半額シールをはがして別の商品に勝手に貼り直してレジで購入しようとした男が逮捕されたとのこと。まあ店から警察に通報されて逮捕されたのは仕方がないとしよう。しかし、こんな「事件」をわざわざ…

宇宙人の頭骨(ヒラタブンブク)と諸星大二郎さん

職場が海の近くなので、昼休みにビーチコーミングをすることがある。僕の歩く浜辺では、あまり貝は多くない。それでいつのまにか、ウニの殻を集めるようになった。 浜辺に打ち上げられたウニのカラは、もちろん棘などはすっかりとれている。真中に丸い穴の開…

『書記バートルビー』 メルヴィル 1853

読書会の課題図書で、光文社古典新訳文庫の『書記バートルビー/漂流船』を読む。 日本で言えば黒船来航の頃の作品だし、文豪の書いたものだし、正直あまり期待していなかった。しかし、二作品とも、予想をこえて読み物として十分に面白かった。 設定もシンプ…

俳句を投稿する

怠け者の僕は、毎日のチェックリストをつけて自己管理を試みている。読書でいえば、評論、小説(漫画)、現代詩、短歌・俳句という欄があるのだけれども、どれも気を抜くと一週間くらい平気で無印のまま過ぎてしまう。どうにかしなければ。 現代詩は、今週の…

夜の運動会

子猫を飼い始めて一カ月。まだまだオーナーとしては初心者だ。生き物と一緒に暮らすのはほとんどはじめてだから、いろんな発見があって面白い。 毎晩のことなのだが、それまでぐたっとしていた猫が突然、何かが憑依したかのように覚醒して、暴れ出すときがあ…

ため池の子どもたち

ひろちゃんの娘さんから聞いた話。 子どもの頃、おてんばだった娘さんはマスマル池に入って泳いだそうだ。池の土手では友だちや弟が見守っている。もう足がつかないところまできたとき、子どもたちが騒ぎだした。娘さんの先を泳いでいたいとこの女の子が、お…

『想像力のテキスト』 山口タオ(文)津川シンスケ(絵) 2003

ずいぶん前に図書館の新刊コーナーで借りて読んで、これは手元に置いておきたいと購入したもの。その時のカンは当たっていて、読み直すたびに啓発される。 60頁のうち、ほとんどが絵を使った解説になっている。実際の世界の広さや地球環境の姿を、具体的な…

ダンスのワークショップにて

障害のある子どもたちが参加するダンスのワークショップを見学した。学生ボランティアを含めて20人強で、2時間程度のプログラム。講師は国際的に活躍しているマニシアさん。パーカッション奏者の生の伴奏つきだ。 このメンバーの独自のダンスを作るという…

炭鉱王の別荘

仕事で地元の旅館のご主人と話をする。高台の座敷からは、玄界灘の白波が見えている。僕が炭鉱に興味があると言ったら、話が思わぬほうにすすんでいった。 ここはもと炭鉱の経営者の別荘だったところで、それを昔ご主人のお父さんが買い取って改装して旅館に…

鵺(ぬえ)の正体

この冬、冬鳥をあまり見かけないと思っていたら、自分が実際に鳥見に歩いていないことに気づいた。鳥たちは、こちらが関心をもって戸を叩かないと、ほとんど姿を見せてくれることはない。 久しぶりの好天の大井川歩き。双眼鏡の焦点を合わせたり、目当ての場…

方角に祈る

昨晩は、宗像大社の近くに自動車を置きっぱなしにしていたので、午前中、ゆっくりと大社までの4キロばかりの道のりを歩く。昨日、諸星さんと車で走った道を感無量でながめたりしながら。以前のようにやみくもに歩いていたときに比べて、足の故障であまりたく…

『コンプレックス・シティ』と諸星大二郎さんのこと 

大学を出て地方都市で一人暮らしを始めた頃、仕事が面白くないこともあって、漫画をむさぼり読むようになった。諸星大二郎(1949-)は、高校時代から『妖怪ハンター』で知ってはいたが、この頃繰り返し読んだ『コンプレックス・シティ』(1980)が、とりわ…

こんな夢をみた(転勤)

職場があわただしい。職員たちの異動が決まったようだ。僕も、遠方の山の上の施設へと転勤となり、これから大変だと思う。 本部にあいさつに行く。夢の中でも、僕はこういう形式的な社交が苦手らしく、ぎくしゃくと言葉をかわす。知った顔が近くを通るが、な…

フィギュアを買う

少し前に、10年近く遅れてアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006、2009)を見て、その内容に驚いた。そのあと、これも名作だと評判の高い『魔法少女まどか☆マギカ』(2011)に衝撃を受けて、すっかり夢中になってしまった。何ごとに関しても飽きっぽく、消化吸収…

神戸の鉄人

もう7,8年前になるだろうか、神戸に寄ったついでに、長田区にある鉄人28号の「実物大モニュメント」を見に行ったことがある。地元商店街等でつくる「神戸鉄人プロジェクト」が、2009年に震災復興と地域活性化のシンボルとして完成させたもので、当時はニュ…

『チョコレートをたべた さかな』 みやざきひろかず 1989

この絵本を手に入れた時のことは、よく覚えている。家の近所の大きなスーパーの一階にある本屋さんの絵本コーナーに平積みになっていたのだ。ずいぶん前に閉店してしまったお店だけれども、絵本には強いこだわりのある本屋さんだったと思う。 単色の水彩画に…

クモの話

クモが特別に苦手だという人がいる。以前同僚だった人は、一センチに満たない小さなクモにも逃げ回っていた。子どもの頃好きだった時代劇『素浪人花山大吉』(1969-1970)の中の人気キャラクター渡世人「焼津の半次」もクモが苦手だった。 昆虫好きだった僕…

「『地方ならお金がなくても幸せでしょ』とか言うな!」 阿部真大 2018

副題は、『日本を蝕む「押しつけ地方論」』。タイトルの印象とは違って、きわめて明晰で冷静な記述に貫かれている。著者は上野千鶴子門下の気鋭の社会学者だ。 本書の意図や方法については、巻頭の頁からこれでもかというくらい何度もていねいに説明されてい…

地蔵のある家

大井の兄弟をめぐる悲劇も、それを知る人がいなくなれば、忘れられていくだろう。やぶの中の地蔵だけが、その痕跡となるだろうが、その意味を知ろうとする人は、これからの時代にはあらわれそうにない。 かつては、そうした記憶はもっとながく受け渡されてい…

飲み仲間の家

兄弟のいさかいによる悲劇は、おそらく四、五十年前の話だろう。家屋も取り払われて、集落の記憶の中で日付も輪郭もあいまいになっているが、かえって濃密なリアリティが感じられる。これが10年前の事件となると様子は別だ。 大井で、ある男の自宅で3人が酒…

兄弟の家

大井で以前にあったこと。 ある家に住む兄弟同士が、何かでいさかいを起こし、一人が一人を鎌で切りつけたのだという。血だらけになって倒れた兄弟を見てようやく我に返った男は、兄弟を殺してしまったと思い、近くの木で首を吊ったそうだ。切られた方の兄弟…

『木原孝一詩集』 現代詩文庫47 1969

木原孝一(1922-1979)は、田村隆一と同世代の「荒地」の詩人。昔から気になっていたが、今回初めて現代詩文庫を通読した。この詩人も57歳で亡くなっている。やれやれ。 イメージと構成の明快な思想詩を書いている印象があったが、似ていると思った田村隆一…

大井炭鉱跡とミロク様に詣でる

ひろちゃんの娘さんと待ち合わせて、大井炭鉱跡を案内する。昼前には小雨がぱらついて、怪しい雲行きだ。一人では心細くて、とても荒れた里山には入れないだろう。 娘さんはひろちゃんから鍛えられているだけあって、荒れ果てた竹やぶも急な斜面もスタスタと…

日めくりをめくって

「皆様、明けましておめでとうございます。皆様も、新年に抱負を持たれたかと思います。私は、小さいことですが、毎日朝一番に日めくりカレンダーをめくることにしました。 日めくりには、その日のことわざが書かれています。今日は、『頭が動かないと尾が動…

ちくわぶ(竹輪麩)の味

玉乃井に年始の挨拶にうかがって、安部さんと東京の食べ物の話になった。安部さんは、初めは苦手だった納豆も食べられるようになったが、ちくわぶだけはだめだった。あんな不味いものはないという。 僕はショックを受けた。子どもの頃、実家のおでんの具の中…

『死の淵より』 高見順 1964

昨年は、現代詩を義務的に読むことをしてみた。それで詩を読む習慣を、ほとんど学生の頃以来久しぶりに取り戻せたような気がする。今年は、さらに自由に詩を楽しんでみたい。あんまり目くじらを立てずに、肩の力を抜いて。 高見順(1907-1965)は、昔から好…

年賀状がこわい

いつの頃からか、年賀状が恐ろしくなった。誰に出すべきなのか、何を書くべきなのかがよくわからない。いや、考えればわかる程度のことだが、それを考えるのがおっくうだ。 パソコンで作成するようになってからは、作り出したら一晩で出来てしまうほど手軽に…

家族の人形と猫の人形

今年も、筑豊山中で正月に開かれる木工の展示会に行ってみた。そこで小さな猫の人形を購入する。展示室の隅に置かれた試作品のようだったが、ご主人の内野筑豊さんに頼んで売っていただいた。 我が家には、十数年前に内野さんから買った家族の人形がある。こ…

ひろちゃんとため池

大井のひろちゃんの家に夫婦で年始の挨拶にうかがう。ひろちゃんは、庭で小魚や野菜を干す作業をしていた。体調を崩していると聞いていたが、思ったより元気そうで安心する。 ひろちゃんは昭和16年生まれで、大井川歩きでは、僕の師匠のような人だ。もう5年…

平知様と「知盛の最期」

平知様(ヒラトモサマ)は、大井川歩きの聖地にして原点だから、初詣を欠かすわけにはいかない。里山のふもとまで車で移動し、足をいたわりつつ標高120メートルの頂上を目指す。途中、倒れた竹を押し分けながら、前に進む。この荒れ方では、今後は参拝も難し…