大井川通信

大井川あたりの事ども

ナンシー関の予言力について

田村正和について書くために、ナンシー関の本を久しぶりに取り出した。文庫本で20冊くらいあるが、別に単行本も10冊ほど持っていると思う。すぐ本を処分してしまう癖のある僕だけれども、持っていて良かった。これからも手放さないようにしよう。

ナンシー関(1962-2002)は、僕が同世代で最も敬意を抱いている書き手である。ナンシーが活躍した20年前までは、まだテレビの時代で、僕もそれなりにテレビを見ていたから、ナンシーの文章の題材もよく知っていて、その料理法や文章作法には舌をまいた。それだけでなく、ナンシーが死んだあとになってから、ナンシーのこだわりの謎が解けたり、ナンシーの予言が的中したりすることを幾度となく経験した。

ナンシーはあくまでテレビ画面上の観察から、そこに浮上する雑多な要素を読み解き、不可視の論理を見出したり、他の人の気づかないほころびや欠落を指摘したりする。

今回、目当てのエッセイを探す中で、たまたま気になる文章が目に入ったので、ナンシーの予言力を示すものとして書きとめておきたい。ジャニーズと近藤真彦をめぐるテーマで、まったく食欲のわかない話なのだが。

最近、マッチこと近藤真彦が、昨年の不倫騒動によりジャニーズ事務所を退所するニュースがあった。ずいぶん以前から近藤が「マッチさん」と後輩から呼ばれて、かつての実績だけで大物扱いされることの不満がネット上などで見られたが、今回の去り際の態度の悪さが火に油をそそぎ「炎上」しているようだ。

ナンシーのエッセイは、1998年のテレビ番組で司会の中居正広の「だってマッチさんのほうが偉いんですから」という発言を取り上げたもの。なんと23年前の文章だ。

ナンシーは、「マッチさん」という呼び名に事務所内での近藤のポジションの良さを読み取り、ジャニーズ事務所の勢力拡大の中で、事務所の身内の価値観が世間に浸透してきているのを指摘する。そのうえで、こう予言する。

「先のことは想像しにくいのだが、この『マッチさん』というのをこのまま温存・成長していくとあれかな、『森繁ファミリー』とか『橋田壽賀子ファミリー』みたいなものになるのだろうか。いま私たちは、そんなうざったいものの萌芽の時を見ているということなのだろうか。どうなんだろうか、マッチさん、ねえ」

まさにその通り。しかし今の視聴者は、ネットという武器をもち、成長した「うざったいもの」に黙って耐えているわけではない。増長しすぎた「マッチさん」を袋叩きにして追い落としたのである。