柄谷行人の新著の新聞広告があったので、すぐに取り寄せて、読み終えた。柄谷の本でこういうことをするのは本当に久しぶりだ。インタビューによる雑誌連載などをまとめたもので、ここ20年の仕事を振り返るものになっている。
『トランスクリティーク』を書いて、NAMの運動を始めた頃の柄谷の本は、比較的よく読んでいたと思う。自分なりに仕事と私的な実践を両立させていた頃で、感心しつつもそれに参加するほど共鳴したわけではなかった気がする。
それ以降は、読まなかったり、読んでもそれほどピンとこなかったりして、柄谷がデモに参加するようになったという記事が気になったくらいだった。この本では、そのあたりのことの理論的説明や裏話も書かれていて、すとんと腑に落ちるものだった。
あらためて柄谷の主張がリアルに感じられるようになったのは、僕自身の年齢が関係あるのかもしれない。二十歳の頃に出会って心酔し、実際に講演で話を聞いたりしながら読み続けてきた書き手は、柄谷を含めて何人かしかいない。先生とか師匠とか思って素直にコウベを垂れることができる存在は、今となっては貴重なのだ。
僕も、人生の残り時間が少なくなりその可能性が狭まってくる中で、それだからこそ幾つかの選択肢がくっきりと見えてきたところがある。この難局に当たって、もう一度師匠たちの言葉に耳を傾ける必要があるのかもしれない。