大井川通信

大井川あたりの事ども

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『カブトムシ 山に帰る』 山口進 2013

昆虫写真家の山口進(1948-)による子ども向けの入門書で、さらっと読めるが、中身はすこぶる濃い。5年ばかり前に初めて読んだときにも、目からウロコが落ちる思いがしたが、ある大切な指摘については、読みとばしていた。最近、そのことの重要性に気づいて…

『金沢城のヒキガエル』 奥野良之助 1995

昔、僕にもヒキガエルは、なじみのある生き物だった。実家の脇には200坪くらいの雑木林の空き地があって、「原っぱ」と呼んでいた。そこには当然のようにヒキガエルが住んでいて、夜に家の玄関に飛び込んできて、家族で大騒ぎしたことを覚えている。街では、…

『20世紀建築の空間』 瀬尾文彰 2000

僕が建築の本を読むのはなぜだろう。もちろん建築の設計をするわけではない。建築の鑑賞も、趣味といえるほど熱心に行っているわけでもない。ただ、建築に関する語彙や語り方を学んで、自分が生きている世界について理解する手がかりを得たい、という漠然と…

村の賢人から書を購入する

大井村の賢人原田さんを訪ねる。賢人は、日焼けして真っ黒だ。勤務している幼稚園につくった芋畑の雑草抜きが大変だという。賢人は、夏は仕事が多くなるから嫌だといいながら、実によくはたらく。 賢人が借りている田んぼには、今年もジャンボタニシが大量発…

『測量船』 三好達治 1930

詩歌を読む読書会での今月の課題詩集。 三好達治(1900-1964)は、昔から「石のうへ」がとにかく好きで、このブログでも分析を書いたことがある。今回も、博多の大寺にお参りした際に、境内の風景を眺めながら、何度も暗唱して楽しんだ。 経済学に限界効用…

安吾の推理短編を読む

図書館の大活字本のミステリーシリーズで、坂口安吾を借りてきて読む。いつのまにかそういう年齢になってしまったが、目に優しい本はありがたい。この短編集には、昭和20年代の戦後初期の世相が表れていて、興味深い。 ただ昨年、安吾の代表作といわれる短編…

こんな夢を見た(暴走ワンボックス+解説編)

実家には、隣の家のブロック塀との間に、すき間のような湿っぽい空間がある。本当は幅50センチメートルくらいしかないはずのそのスペースに、突然、大型のワンボックスカーが入り込んで来たのだ。 無理に通り抜けようとするが、途中であきらめたのか、その場…

河童忌に芥川龍之介の『河童』を読む

芥川龍之介(1892-1927)は、10代の頃の僕のアイドルだった。今も、唯一全集を持っている小説家である。だから、河童忌だけは、昔から忌日として意識していた。 芥川がアイドルだったというのが、僕の限界というか、いかにも自分らしい。漱石はもちろん、太…

『ジュリアス・シーザー』 シェイクスピア 1599

尊敬する批評家柄谷行人の出世作は「マクベス論」だったし、柄谷のかつての盟友経済学者の岩井克人の高名な評論は「ヴェニスの商人の資本論」だ。ながく演劇の畑にいて公立劇場の館長をしている従兄は、日本の演劇人はシェイクスピアの教養すらないと嘆く。…

『クマゼミから温暖化を考える』 沼田英治 2016

数年前からの積読だったが、今回のセミのマイブームで手に取ってみた。若い読者向けの本だが、面白い。クマゼミが大阪の街で増えたという事実を、さまざまな角度から、根気よく調べていく。著者の探究を支えるのは、次のような信念だ。 「大学の教員は社会と…

涼宮ハルヒのために

京都アニメーションの放火事件は、僕にも相当な衝撃を与えた。無意識のうちにテレビやネットのニュースからも目を背け、新聞でも極力その記事を見ないようにしていたのだ。自然災害や大事件でニュース報道にくぎ付けになることはあっても、ニュースを避ける…

クマゼミの羽化

今月に入ってから、庭の周辺で見つけたセミの抜け殻を一カ所に集めている。手の届かないケヤキの枝の先に見つけたものも含めると、今日までで20個になった。そのうち19個は明らかにクマゼミで、一つはおそらくアブラゼミだろう。 二日前の夕方、庭の花壇の近…

エピソードが思考する

前々回の記事の『ほんとうの道徳』の書評は、その本をめぐって、若い教育学者の友人と、何回かメールでやりとりしながら考えたことのエッセンスである。メールの分量は、僕が書いたものだけでも、この書評の5倍以上はあるだろう。 僕は専門の学校教育には不…

カミキリムシの話

黒光りする硬い甲羅におおわれた甲虫は、昆虫少年のあこがれの的だ。カブトムシやクワガタムシ。水中ではゲンゴロウ族。ただし、どこにでもいて、戦闘力のないコガネムシやカナブンの仲間には魅力が感じられないのは、仕方のないことだろう。 それでは、カミ…

『ほんとうの道徳』 苫野一徳 2019

学校教育については、次から次へと批判者が現れて、一面的な観点や一方的な思い込みから、正論めいた意見をはく。 なるほど、学校には様々な問題があるだろう。それは、一人の人間を見ても、家族を見ても、地域や企業を見ても、社会や世界をながめても、およ…

僕はニイニイゼミすら聞き分けていなかった

夕方、家の周辺を歩く。いろいろ反省することしきり。 まずは、先日ヒメハルゼミの調査と称して、近隣の神社を車で回ったこと。家の近所をたんねんに歩き回れば、ちょっとした鎮守の森程度の林はあちこちに見つかるのだ。そこを調べるのが、やはり大井川歩き…

『空白の殺意』 中町信 1980(2006改稿 原題『高校野球殺人事件』)

中町信(1935-2009)の推理長編を読むのは、三作目だ。ミステリーファンでない僕が彼の作品にひかれるのは、それが世界の中に仕掛けられた謎というより、世界そのものの成り立ちの謎を示唆しているように思われるからだ。 この意味でいうと、前二作よりもず…

こんな夢を見た(不治の病)

職場に電話がかかってくる。「すぐに病院に来ないと死にますよ、という検査結果の通知を見てないのですか」と、とがめるような若い女性の声だ。そういえば、病院からの封書を見ていたのを思い出した。しかしそんな重大な知らせを忘れて一日放っておいたこと…

『セミ』 ショーン・タン 2019

6月の終わりくらいを皮切りに、自宅の庭でクマゼミの抜け殻を見かけるようになった。今年初めに植木のレッドロビンをすべて抜いて庭土を掘り返してしまったから、地中のセミが心配だったのだが、すでに10個近くの抜け殻を発見している。鳴き声も一週間く…

ヒメハルゼミの研究(その4)

梅雨なのに今日も晴れ。まだ明るい午後7時に家を出て、徒歩で目的の場所に向かう。やはり大井川歩きの基本は徒歩でないと。村で常緑広葉樹の林が残っているのは、鎮守の森以外では、かつての墓山だろう。今では大井区の納骨堂が造られているが、その背後の高…

ヒメハルゼミの研究(その3)

今日は快晴に近いから、夕方でも明るい。午後6時半近くに和歌神社へ向かうため、秀円寺裏の林の道を下りていると、遠くからヒメハルゼミの合唱が聞こえる。しかし近づくと、鳴き止んでいた。再び鳴き始めたのは6時50分。曇りの夕方より本格的な鳴き始めは遅…

「なんもかんもたいへん」のおじさんとしんみり話す

黄金市場を二カ月ぶりに訪ねる。日曜日のためか、ほとんどの店がシャッターを下ろしていて、平日の活気がない。後で聞くと、大通りをはさんだ古くからあるスーパーが年度末で閉店してしまったのも影響が大きいという。何割もお客さんが減ったらしい。何でも…

ヒメハルゼミの研究(その2)

仕事が終わってから、近隣では最大の鎮守の森がある宗像大社へ。午後6時を過ぎて人気のない境内を歩く。うっそうとした大木の並ぶ小道を歩いて、小山の上の祭祀場に向かう。奥の森からヒメハルゼミの鳴く声が小さく聞こえてくるが、アクセス可能な場所にはセ…

ヒメハルゼミの研究

午後5時過ぎに家を出て、歩いて5分ばかりの和歌神社にむかう。今日は曇っているので、すでに夕方らしい時刻だが、神社の境内にセミの声はない。いったん家に戻ろうとすると、突然裏の林からセミの合唱が始まる。5時30分頃だ。しばらく聞いてから家に戻り、帰…

ヒメハルゼミの合唱

数年前、職場近くの松林で、ハルゼミの存在に気づいて、驚いた。セミは、もっとも身近な昆虫であり、今さら新しい発見などないと思い込んでいたからだ。もっとも、ハルゼミは松林の中でなら、それほど珍しいセミではないのかもしれない。5月に奈良に行ったと…

僕は自分の方法をもっと信じなければいけない

妻が20年ばかり通っている彫金教室を、猫を連れて訪ねる。マンションの一室の工房を先生が改装したので、そのお披露目の会があるのだ。猫との外出は初めてなので、エサやらトイレの砂やらを車に持ち込む。こんなふうにあれこれ気を使うのは、子どもが赤ちゃ…

『月に吠える』 萩原朔太郎 1917

今月から始まった詩歌を読む月例の読書会に参加する。この会が定着すれば、毎月の小説を読む会、隔月の評論を読む会、月例の個人勉強会とあわせて、生活の中で無理なく読んだり考えたりすることのペースメーカーになってくれるだろう。 初回は萩原朔太郎(18…

『三陸海岸大津波』 吉村昭 1970

この書物を読むと、まるで2011年の東日本大震災の時の大津波の記録を読んでいるような気になる。あの時には、福島原発が「想定外」の被害を受けたということもあって、千年に一度くらいの稀な津波被害に、運悪く巡り会ったかのような印象を受けていた。事情…

ビワとカマキリ

以前に妻が、知り合いからビワの葉のエキスをもらってきて、それが市販の塗り薬よりもよく効くと話していた。それで自分で作りたいからビワの葉を見つけてほしいというので探すと、意外と身近なところにビワがあることに気づいた。近所のため池の縁にも、雑…

『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』 丸山俊一 2018

NHKのプロデューサーによる人気哲学者マルクス・ガブリエル(1980-)の軽めのインタビュー集のようなもの。読書会の課題図書で読んだのだが、問われるままにあらゆることに一言もの申しているためか、話題があちこちに飛び回っていて、いったい何がいいたい…