大井川通信

大井川あたりの事ども

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ドキュメントを読む

今月の吉田さんとの読書会では、年末年始に読んだ4本のドキュメントの感想記事をもとにレジュメを作った。4本とも犯罪をめぐるドキュメントになってしまったのは僕の趣向のせいだが、教育現場を扱った『月明学校』や『山びこ学校』もドキュメントだし、『遠…

『世界のはじまり』 バッジュ・シャーム/ギータ―・ヴォルフ 2015

年齢を重ねて、知力や根気が衰えてくると、膨大な活字が詰まった本はしだいに役にたたないものになっていくだろう。だからこそ今のうちに読んで後悔がないようにしておきたいという気持ちがある。 一方で、自分が年老いた後でも変わらず楽しめる本を手元に残…

『遠い「山びこ」』 佐野眞一 1992

偶然だが、昨秋、著者の佐野眞一(1947-2022)の訃報に接している。「無着成恭と教え子たちの四十年」という副題が示すとおり、無着成恭の『山びこ学校』(1951)の周辺を辿るノンフィクションということで、2005年の新潮文庫版の古書を取り寄せた。 昨年末…

カラスな男

僕の職場は、駅前を出て、都市公園の散策路を歩いて通えるようになっている。いったんカラスの姿を見かけなくなった都市公園も、朝にはカラスが集まるようで、カラスの鳴き声が飛び交っている。 その鳴き声の中に、少し違和感のある声が交っているのに気づい…

多動な男

通勤電車は初めから座れることはめったにないが、たまに途中の駅で座れることもある。座席配置は一定ではなく、東京みたいな長いベンチの向かい合わせの車両もあれば、ボックスタイプの座席の車両もある。 今朝、ドアの脇の通路で、ボックス席の背に身体を持…

都市公園の小鳥たち

カンタロウのことばかりになっているが、真冬にも都市公園にはいろいろな鳥たちがやってくる。池や水路に我が物顔で居座っているのは、たくさんのマガモだ。夏には見かけたカルガモはすっかり居場所を奪われている。 マガモは意外に重量級でパワフルな鳥だか…

久しぶりに新聞を開く

コメダコーヒーでは、一般紙とスポーツ紙が読めるから、モーニングを食べながら、ざっと目を通してみる。新聞は紙面があたかもイデオロギーに統一されているかのように批判を受けることがあるが、こうして久しぶりに読んで気づくのは、あまりに雑多な情報が…

大寒波のカンタロウ

日本列島に大寒波が襲来するということで、朝から不穏な空模様になった。しんから冷え込んで、寒風が吹き荒れている。お昼前からは吹雪くようになり、突風に雪が舞っている。まるで北国だ。これでは電車が止まるかもしれないと、午後から仕事を切り上げるこ…

『魔術師』 江戸川乱歩 1931

肩の力を抜いて、読書を楽しみたいと思って、乱歩の「通俗長編」の一冊を手にとった。創元推理文庫の乱歩シリーズの一冊。このシリーズは、雑誌連載当時の挿絵がふんだんに載せられていて、本文だけの文庫本とは印象が全く違う。昭和初期の挿絵には時代の空…

『宗教の最終のすがた』 吉本隆明/芹沢俊介 1996

副題に「オウム事件の解決」とある。オウム関連資料として買ったものだが、薄い対談本にもかかわらず、吉本らしく独善的でねちっこい論理展開がわかりにくく、弟子筋の芹沢の追従(吉本関連本にはありがちな態度なのだが)も気になって、読み切れなかったも…

『輪廻の蛇』 ロバート・A・ハインライン 1959

ハヤカワ文庫での邦訳は、1982年の出版。昨年、映画の原作となった表題作の短編だけを読んでいたが、今回は全体を読了。その前に読んだディックの短編集の出来があまりよくなかったためか、それと比較して、一篇一篇の完成度が高く、バラエティもあって読み…

博多駅前ストーカー事件(事件の現場12)

マスコミの生々しい報道を見ていたせいもあって、この身近に起きた事件の現場を訪ねようという気持ちは起きなかった。週末、博多駅に寄ったのも本屋が目的であって、電車が駅に近づくまで、この事件のことを思い浮かべることもなかった。 駅を降りてスマホで…

『山びこ学校』 無着成恭編 1951

この著名な本も、戦後50年を区切りに岩波文庫に入った当時手に入れて、四半世紀の積読を経てようやく読了した。同じころ話題になった『月明学校』を先日読んだことがきっかけだが、『やまびこ学校』の方が反響も大きく、後世への影響もずっと大きかったとい…

『変数人間』 フィリップ・K・ディック 1953

ハヤカワ文庫のデック短編傑作集の2冊目を読む。1冊目の『アジャストメント』はどれも粒ぞろいという印象だったが、今回は、ピンと来ずに〇△✕の三段階で✕をつける作品が多かった。僕のSF的な教養の乏しさが原因だとは思うが。 その中で、映画化もされた『…

水引と山頭火

昨年の冬から一年ぶりに東京の姉が来福した。僕は、この間、二度姉宅に泊っている。両親が亡くなって、実家も手放してからは、かつて僕の育った「家」の実体は、僕と姉との関係の中にかろうじて存在するのみになった。もしどちらか一方だけになった場合には…

カラスの亡骸とカンタロウ

年初のお祭りが終わってから、東公園からカラスの姿が消えてしまった。広い公園の周辺では、何羽かのカラスを見かけるのだが、かつて公園のあちこちで何十羽もいた群れの姿が見当たらないのだ。 公園の小さな池と水路には、冬に飛来したたくさんのカモたちが…

『くるくるかわるねこのひげ』 ビル・シャルメッツ 2014

ビル・シャルメッツ(1925-2005)はアメリカのイラストレーターで、原作は1969年の出版。騒然とした時代を背景としているせいか、はちゃめちゃで楽しい絵本だ。 原題はシンプルに「ねこのひげ The Cat‘s Whiskers」。帯に「待望の復刊!」とあるから調べる…

ご近所トラブルを収束させる

11月の終わりに、妻が隣家の奥さんからケヤキの落ち葉のことで苦情を受けた。長男の幼稚園時代からの付き合いだけれども、感情が爆発したみたいな様子だったという。それを聞いて、何年もわたって相当不満をためてきたのではないかと想像できた。 妻も混乱…

2023年新春に2023本目の記事

今回が、2023本目の記事。ちょうど西暦の年数と同じ数になった。感慨深い。 1000本目の記事を書いた時も、ようやくたどり着いたという達成感があったが、それ以来だ。記事の一本を一年と見立てれば、紀元以来の人類の歴史のボリュームを疑似体験できるような…

『小林一茶』 大谷弘至 2017

昨年11月東京に行ったとき、たまたま八王子に寄った。八王子は20代の数年間、塾講師として働いた街である。八王子の駅前から放射状に伸びる道を以前塾の有ったビルのあたりまで歩いたけれども、懐かしさや親しみをあまり感じなかった。人間の記憶にも体験…

カンタロウ vs. 十日恵比須(とおかえびす)

カラスたちの根城である東公園が、新年の名物行事である十日恵比寿のお祭りの屋台一色となった。様変わりした公園を、カラスたちはどんな風に思っているのだろうと、ついついカラス目線で考えてしまう。 残飯や生ごみにありつく機会は増えるだろうから、年に…

『人びとの自然再生』 宮内泰介 2017

タイトルの頭には、やや小さな活字で「歩く、見る、聞く」の文言が入っている。 岩波新書の一冊で、帯やカバーには本書のポイントが広告されているし、このタイトルからしてよい本であるのはわかっていた。明らかに僕の問題意識にかなう内容だ。それで、出版…

里山の三社参り

元日の夜には、近辺の村社(村の鎮守)の三社参りをしたから、新年最初の連休で、里山の神様への初詣をすることにした。 参道の入り口で、農作業するひろちゃんの娘さんに新年のあいさつ。ヒラトモ様への林道は枯れた竹にふさがれて通行できない部分がある。…

目羅博士 vs.『幽霊たち』

『幽霊たち』は、ポール・オースター(1947-)の1986年の作品。 昨年末から、自分の読書を、評論、詩歌、絵本、日本文学、外国文学、ノンフィクションの6分野で意識的に回していこうと思いついた。もともとはほとんど評論専門だったが、この5年くらいの間…

『三億円事件』 一橋文哉 1999

2002年の新潮文庫版で読む。ながらく積読だった。 僕にとって、三億円事件は特別な事件だ。小学校1年生(7歳の誕生日の直前)に隣町で発生した事件で、全国的な大ニュースになったし、その後の捜査の進展状況も話題になった。偽白バイが現金輸送車をだまして…

こんな夢をみた(テープ起こし)

今の仕事の関連の夢をはじめてみた。 今日中にテープ起こしをしないといけない案件が二つあることに気づく。早朝飛び起きてさっそく作業を始める。ただし、現実の世界同様、パソコン入力も不器用で思うようにすすまない。ややぞんざいな喋りの文言をどうなお…

痛風とむきあう

朝起きると、左足の足裏の親指の付け根あたりが痛い。年末年始のお休みで、あまり歩いていないから、歩きすぎで痛めたということはない。しかも今まで痛くなったことのない部位だ。ネットで調べると、典型的な痛風の症状であることがわかった。 尿酸値は、だ…

こんな夢をみた(街頭演説)

実家から南東方向の府中市(分倍河原駅近く)の設定だった。相変わらず僕の精神は、実家のある土地に根を下ろしたままなのだろう。 駅前の狭い道にぎっしり人が並んでいる。そろいのハッピを着て交通整理をしている関係者がいる。どうやら政治団体の演説がは…

『詩集 言葉のない世界』 田村隆一 1962

新年早々、北九州連続監禁殺人事件のドキュメントを読むやりきれなさから、思わず手にとった詩集。わずか十篇の薄い詩集が、半世紀以上を経て2021年に再刊されており、昨年、帰省中の国立増田書店で手に入れた。この十篇は、田村隆一のいろいろなアンソロジ…

『消された一家』 豊田正義 2005

副題は「北九州・連続監禁殺人事件」で、2009年の新潮文庫版で読む。 ドキュメントをまとめて読もうと思って、以前からの宿題だった本書を手にとったのだが、新年早々、憂鬱な読書になってしまった。 僕は、この監禁殺人事件の現場となったマンションと多少…