大井川通信

大井川あたりの事ども

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『ビアス短編集』 大津栄一郎編訳 2000

十代の終わりに、少しだけ文学青年だった時期があって、その頃好きだった作家の一人が、アンブローズ・ビアス(1842-1914)だった。短期間だったから、多くの作家に触れたわけではない。小栗虫太郎も好きだったから、少し異端の匂いがある作家が気になって…

『夢があふれる社会に希望はあるか』 児美川孝一郎 2016

著者は、今の世の中が「夢を強迫する社会」となっていること、学校におけるキャリア教育がこの風潮を作っていることを指摘する。この指摘は、はじめ僕には違和感があった。これが本当なら、僕の知らないところで、いつのまにか世間がそうなってしまったこと…

『公務員クビ!論』 中野雅至 2008

これも積読本。公務員の不祥事によるバッシングと公務員改革が本格化した頃の本だ。今になってようやく読む。 公務員受難の時代が続くという予言は当たったが、著者の主張する官民統一から官民流動の流れが起きているとはいえないし、12年たっても公務員をめ…

心的現象としての夢

近ごろ、NHKの教養番組で取り上げられたためか、吉本隆明(1924-2012)に一般の注目がいくらか集まっているようだ。角川文庫版「主要三部作」が増刷されて、書店で平積みになって売られている。 吉本を語りたい層が、かろうじてまだ健在なんだろう。僕は若…

夢の話はつまらない!

このブログに目を通してくれている知人と話していたら、「こんな夢をみた」のシリーズがひどくつまらない、という話がでた。 他人の夢の話がここまで面白くないとは。題名をみただけで、スルーしている。等々。 申し訳ありません。しかし指摘されて、なるほ…

こんな夢をみた(合歓の木)

実家の隣の原っぱが、きれいに雑木も雑草も刈り払われて、平坦な土地になっている。けれど、合歓(ねむ)の木だけは、空き地の真ん中に一本残されている。 昔から懐かしい合歓の木だ。栗の木ばかりの中を、手のひらのように枝を上品にひろげて、季節にはきれ…

『地方消滅』 増田寛也編著 2014

5年前のベストセラー。帯には、「新書大賞2015第1位」の文字が躍っている。例によって、積読本を今になって読む。 出生率の低下や少子化につていは、だいぶ前から社会問題になっていた。しかし、そのことがもたらす人口減少については、せいぜい高齢化が指…

『李陵・弟子・山月記』 中島敦 1967(旺文社文庫)

1979年の第38刷。1981年2月20日の購入日の書き込みがある。大学1年、19歳の時だ。まさか40年後に手に取って読み直すなんて考えてもいなかっただろう。 以前なら、活字の大きい読みやすい紙面の文庫に買いなおして読んだだろうが、今となっては旺文社文庫は貴…

梅崎春生を読む

安部さんと話しているとき、梅崎春生(1915-1965)が話題になった。梅崎は、戦前津屋崎の療養所にいたことがあったという。『蜆(しじみ)』とかいいよね、と安部さん。それで、短編の『蜆』を読むと、なかなか良かった。 古い外套をめぐって、それをもらっ…

「家系ラーメン」の幻想

味覚とグルメに関してはまるで自信がないと、このブログでも書いてきた。それでも凝り性だから、何かの食べ物に憧れたりすることはある。その場合でも、せいぜいB級グルメなのだが。 家系ラーメンというものを初めて知った時には、まず、その不可解なネーミ…

あだ名について

人のあだ名をつけるのが上手な人がいる。人の物まねをするのが上手い人がいるが、それと同じような一種の才能だろう。 子どもの頃は、友人同士や教師にたいしてふつうにあだ名をつけていたと思うが、大人になると、そもそもあだ名というものにめったに出会わ…

夜中、目がさめて

夜中目がさめて眠れなくなる、なんてことはめったにない。気が小さいわりには、変に図太く、無神経な人間なのだ。 けれど、珍しく今がそういう状態だ。ふと食べ物のことが頭に浮かんだら、連想がつながって昔のくらしことを思い出す。昔の日々には愛着はある…

乱歩と十三

海野十三(1897-1949)の短編集を読み切った。少年時代からその名前に不思議な魅力とあこがれを抱いていた作家だから、実際に読むことができてよかった。しかし一冊読んだ限りでも、むしろ同時代の江戸川乱歩(1894-1965)の偉さを実感してしまう。 たとえ…

ある「副都心」の盛衰

僕は、大学を卒業した36年前に、転勤でこの地方都市に越してきた。全くの偶然としか言えないが、別の会社に就職した友人もこの街の支店勤務になった。 僕の勤務場所は、100万都市の中心街にあったが、友人の支店はそこから少し離れた街にあって、その政令都…

今年のセミ

セミがマイブームだった昨年とは違って、今年のセミとのつきあいはたんたんとしたものだ。それでも、いくつか確認できたことがある。 庭のセミの抜け殻は、目につく限りひろったが、20個ばかり。ほぼクマゼミだと思う。発見できたのは7月の初め(7月4日)か…

盆明けの大井村で

お盆の連休の最後の日の朝、日が上がるまえに一時間ばかり大井を歩く。 秀円寺の裏山を通ると、六地蔵前の草がきれいに刈られている。湿った地面近くをしきりにハグロトンボが飛ぶ。山門下の田んぼは、10軒ほどのモダンな建売住宅に変わっていて、タイムトン…

こんな夢をみた(落下と会議)

近ごろ、電灯をつけたまま寝てしまい、夜中に何度か起きるという不摂生な暮らしをしている。こんな時は、寝起きの度に、新鮮な夢のイメージが頭に残っているものだ。 【落下のアトラクション】 建物の上にあがってみると、下から見上げていた印象とはちがい…

『ノラネコの研究』伊澤雅子(文)・平出衛(絵) 1991

研究書のようなタイトルだが、福音館の全40ページの絵本だ。 著者が追いかけた野良猫のナオスケの一日の振舞いを絵本にしている。追いかけた、といっても一日の移動距離はせいぜい1キロメートル余り。睡眠時間は18時間以上で、休んだ場所が4か所。ご飯を食…

トンネルを抜けて

お盆だがコロナ禍で人込みには外出もしづらいので、夫婦で田舎にドライブに行く。山間の小京都秋月と、豆菓子店のハトマメ屋を目標にすることにした。秋月に行くには、大宰府の方に大きく迂回するか、筑豊経由なら山に入り、やっかいな峠を越えないといけな…

ペットロスということ

新聞記事で、ペットロスという言葉を知った。言葉の成り立ちからすれば、意味の取れない言葉ではない。けれどそれがどれほど深刻な意味をもっているかは、実際にペットを飼ったものにしかわからない、と記事に書いてある。 自分の親が亡くなったときより悲し…

再び、フィギュアを買う

ほんだらけで、古本を買う。半世紀前の日本文学全集で『椎名麟三集』が300円。読み終えたアンソロジーとかぶりの作品がほとんどないのがうれしい。もう一冊は、山崎正和の近著『リズムの哲学ノート』が、新品同様で半額の1100円。山崎正和はけっこう好きだが…

『子どもに伝えたい〈三つの力〉』 斎藤孝 2001

斎藤孝(1960-)が論壇に登場して、さかんに発信し始めたばかりの頃の著書。その後、ベストセラーや実用書を数多く出版したり、多数のテレビ番組に出演したりしてすっかり人気学者になる。そうなると、へそ曲がりの僕は著書をまじめに読む気を無くすから、…

『美しい女』 椎名麟三 1955

三年前にブログを始めた時に、これを機会に苦手の小説にとりくもうと思って、まず手に取ったのが、古本屋で200円で買った椎名麟三(1911-1973)のアンソロジーだった。ハンデサイズの文学全集の一冊で、50年前の本だったけれど、ページを開いた形跡がなく、…

ジンベイザメに会う

僕が、サメが好きかどうかというと、微妙である。 以前、サメに関する本を二冊買ったことがある。一冊は写真集、もう一冊はサメの不思議みたいな入門書。ふつうサメの本とか買わないだろう。しかし、二冊とも古書店に処分してしまった。 食玩などでミニチュ…

キスリングの肖像画

僕が美術館に行く習慣がついたのは、30歳過ぎてからという晩熟(おくて)だったが、それでももう四半世紀、めぼしい美術展をチェックしていることになる。 そうすると、有名どころの気になる画家については、たいてい回顧展を観る機会があった。キスリング(…

続・本をならべる

僕は、もともとどんなふうに本をならべていたのだろうか。 文庫や新書や叢書などは、種類ごとにひとまとめに並べる。それ以外の単行本は、だいたいジャンルごとに並べているけれども、本のサイズをできるだけそろえて、それも高さ順にきれいに並べたい気持ち…

本をならべる

3年ばかり前から、読んだ本を順番に並べていくスペースを別に設けるようにした。僕の目下の「寝室」の洋服ダンスの上だ。 根気のない僕は、読みだした本をなかなか読み切ることができない。読了本を並べる場所を設けることで、そこに並べたいという動機によ…

安部さんからのメール

安部さんは、僕のブログの数少ない毎日の読者だ。有名人でもないかぎり他人の日録など誰も興味をもたないし、親しい知人であっても、よほどの文章家でもないかぎり、こざこざした文を読みたいとは思わない。現に僕自身がそうだ。 安部さんは、僕などとは違い…

大井川歩きと「流域思考」

岸由二さんの唱える「流域思考」は、大井川歩きで僕が漠然と意識したり、気づいたりしていたことに明確な言葉と知識と思想を与えるものになっている。 僕ははじめ、自分が寝起きし暮らす自宅を中心にして世界を見ていこうと、そこから歩ける範囲を自分のフィ…

「『流域地図』の作り方」 岸由二 2013

ちくまプリマ―新書の一冊だから、若い人向きに書かれていて、イラストも豊富で読みやすい。けれど、真に原理的で、そうであるがゆえに真に実践的で、革命的な本だ。と、やたら肩に力が入ってしまうくらい、素敵な本だと思う。 たとえば、かつて人類の歴史を…