大井川通信

大井川あたりの事ども

「機関車を見ながら」-芥川小論

『侏儒の言葉』が残念だったので、全集を引っ張り出して、晩年の短文にいくつか目を通してみた。経験上、芥川に関しては、こんな場合に満足のいく発見は期待できない。しかし、今回は、はっと目をひく文章を見つけた。 昭和2年の自死のあと発表された遺稿の…

『侏儒の言葉』 芥川龍之介 1927

子どもの頃から芥川が好きだった。学生時代は市立図書館で岩波の大判の全集を借りてきて読んだし、社会人になってから、版が小さくなった新しい全集を手に入れた。とはいえ、持っているだけで、きちんと読んだわけではない。 この岩波文庫の『侏儒の言葉』の…

銀杏の黄葉

この秋は、資格試験の勉強など再就職の準備のためにバタバタして、紅葉をすっかり見逃してしまった。ババウラ池のモミジも、気づいたときには散りかけている。 ようやく間に合ったのが銀杏だ。こうしてみると、里山の中にも、古い集落の中にも、銀杏はところ…

脳科学者の話を聞く

仕事がらみで、脳科学者の講演を聞いた。有名学者だけあって、素人にもよくわかる気の利いた話で楽しかった。テンポよく要所で、錯覚図形をプロジェクターに映す。効果抜群の画像だから、聴衆を驚かせて飽きさせない。 錯覚はおもしろい。僕は子どもの頃、社…

『夜と霧』 ヴィクトール・フランクル 1946

読書会の課題図書で読む。 感覚的には、本当にこんなことがあったのか、あったとしてもごく例外的な不幸だったと思いたい、というのが正直なところ。 しかし、周囲(自分の内外)を振り返ると、すさまじいばかりの自然の改変(破壊)と生物の組織的な殺戮、…

『林達夫評論集』 岩波文庫 1982

久しぶりの再読。以前、林達夫(1896-1984)が気になって、何冊かまとめて読んだ時期があった。やはり、どの文章もそれなりに面白い。ただ、圧倒的にすごいという切れ味までは感じられない。もちろん、時代の文脈の違いと、そもそもこちらの教養や興味関心…

黒島伝治のエッセイをいくつか

新編集の文庫には、エッセイもいくつか載っている。小説では技巧をみせる伝治も、ここでは素朴でぶっきらぼうだ。 「入営する青年たちは何をなすべきか」では、青年たちに、軍隊に入ることで兵器の使い方と組織的な動き方を学び、来るべきブルジョアジーとの…

『黒島伝治作品集』 岩波文庫 2021

絶版になっていた黒島伝治(1898-1943)の岩波文庫が、新しく編集されて出版された。以前にも書いたが、僕が最近になって黒島伝治のことを気にするようになったのは、代表作「渦巻ける烏の群」の題名によってだった。 ロシアが舞台の小説で、カラスの群れが…

注目記事のこと

細々と続けているブログだけれども、どんな記事が読まれているか少しは気になる。アクセス数も気にならないことはないが、それを増やす努力もしていないので、読んでくれる人がいるだけで十分だろう。 ブログの心がけは、「毎日書く」「好きなことを書く」「…

財布をもって追いかける

外国人の動画に、日本で財布を落とすと、それを拾った日本人は必ず落とし主に返すということを検証するものがあった。実際に、動画の主が人込みでわざと財布を落とすと、それを目撃した日本人は、素早く拾って落とし主を追いかける。まさに百発百中だ。 まあ…

こんな夢をみた(ハルヒとまどマギ)

大学のゼミの飲み会が合宿先のような場所だった。酔っぱらって、ほとんどろれつの回らないような参加者もいる。僕の隣には、ちょっとオタクっぽいような、地味な感じの女子が座っていたので、アニメの話をすることにした。 といっても、現実世界と同じで、最…

寮の先生の話

僕らの世界には、気が遠くなるほどの数の人が暮らしている。一方、僕らのふだんの暮らしは、ごく少数の人達とだけ繰り返しあうことで成り立っている。しかし、「意外な出会いやつながり」というのが実はごく当たり前で、知り合いの知り合いをたどれば、驚く…

歴史の救済

僕は、本を読みながらというよりも、街を歩いたり、車を運転したりしながら、自分の思い付きをじっくりと考えることが多い。 ベンヤミンレポートに備える作業も、ベンヤミンのテクストを読むというより、自分の中に残存して生きている彼のイメージを何度も反…

私は地理が好きだった

馬はたのしい。競馬も面白そうだ。動画を見ているうちに、競馬好きだった寺山修司のことを思い出して、そのエッセイを読み返してみた。そうして、以前、熱心に寺山の本を読んでいた時期があったのを思い出した。 文庫本は何冊もあるので、パラパラめくってみ…

介護職員初任者研修9日目と10日目

9日目は、終末期介護。人工呼吸や胃ろう、人工透析など、延命治療の具体的な話を聞く。いくらか知識はあるつもりだったが、この問題についてばくぜんとしかイメージしていなかったことに気づく。たとえば、6月のコロナ感染症では、僕は酸素投与で済んだが、…

薬局をうろつく

実は、自分の進路の件で、いろいろ事情の変更が生じて落ち着かない。本来未来は不確定なのだから、何か新しいことを始めようとするときに、予想外の事態に直面するのはやむを得ないことだろう。 こういう時は、たんたんと確実に前に進める作業をやるのが、精…

環境整備月間

11月に入って今年度も完全に折り返しモードに入った。夏からのカウントダウンも続けていて、2日で150日を残すところになったが、やはり日数では、あまり切迫感がない。資格試験の受験日や読書会の発表日などを区切りや目標にしているけれども、それでやる…

漢詩を読む

このところ読書会は、毎月の小説を読む読書会と、詩歌を読む読書会、それから隔月の評論(哲学・思想)を読む読書会に参加している。それと読書会ではないが、毎月の吉田さんとテーマを決めた勉強会でも書物が話題になることが多い。 小説を読む会は3年間、…

『とらのゆめ』 タイガー立石 1984

本屋で児童書のコーナーをながめていたら、この絵本が目立つように立てかけられているのが目をひいた。タイガー立石の新刊はないだろうと思って奥付をみると、1984年発行された本の再刊のようだ。「こどものとも」という30ページばかりの月間雑誌の一冊であ…

動画をみる

ごく最近、競馬の動画を見るようになったことを書いたが、人並みに動画を見るようになったのは、おそらくこの二年ばかりのことである。 まずは、お気に入りのバンドの動画をあさるようになった。海外のライブだと、ファンの撮った映像があるから、それを見る…

介護初任者研修7日目と8日目

7日目は、排せつに関連した介護。おむつは最終手段であって、それが当人たちにとってどれほど具合の悪いものであるかが強調される。最後のおむつ交換の実技の前に、その原則が徹底的に刷り込まれるのだ。現場の実態が理想とは違うことは、講師の話からも伺え…

馬が走る

やる気がわかないときは、ついついネットの動画をみて時間をつぶしてしまう。どんな動画をみるかは、その時のマイブームがあるが、このところ競馬の動画にはまっている。今まで馬券を買ったことは無いし、競馬場でレースを見たこともない。 実家は府中の東京…

追悼 白土三平

今月8日に漫画家の白土三平が亡くなったという報道が、月末になって出た。作者はあまり表に出てこないし、かなり昔の人というイメージもあり、なにより作品が巨大すぎて生身の作者が想像しにくかったのかもしれない。亡くなったと言われても、ちょっとピンと…

トラマルハナバチの蜜集め

子どもの頃から、クマバチが好きだった。まんまるな黒いおしり。これまた丸い胴体には黄金色の毛が生えている。大人になってからは、春の藤見の藤棚で見かけることが多かったが、かなり大きな姿を不快に思うことはなかった。 スズメバチはもちろん、どんな小…

人を呪わば穴二つ

他人に害を与えれば、必ず自分にかえってくるということ。他人を呪い殺せば、自分も相手の恨みの報いで呪い殺され、結果墓穴が二つ必要になるということから。漠然と口にしてはいたが、意味まで調べたことはなかったので、こうまでダイナミックかつダイレク…

『人新世の「資本論」』 斎藤幸平 2020

コロナ感染症で宿泊療養施設のホテルに隔離された時に持ち込んだ本の一冊。いわずとしれたベストセラー。今時マルクスの研究者の本が売れ続けているというのが不思議だったが、ようやく手に取って一気に読了し、その意味が納得できた。 とても良い本だ。読書…

『新世紀のコミュニズムへ』 大澤真幸 2021

読書会の課題図書。課題図書の指定のある前に、僕がすでにこの本を買って積読していたのは、やはりまだ大澤真幸という思想家に期待と幻想があったからだろう。 ところが、読み出してみると、これはとんでもない本だった。冒頭、コロナ禍の解決のためには世界…

『怪人二十面相』 江戸川乱歩 1936

読書会の課題図書で読む。昔懐かしい明智小五郎シリーズ。確かポプラ社で、同じような装丁のシャーロックホームズと怪盗ルパンの両シリーズとともによく読んだが、やはり明智小五郎が一番好きだった。 今回読み返して、いかにも少年もので、それまでの乱歩の…

介護初任者研修5日目と6日目

5日目は、移動に関する実技のある研修だった。ほんのさわりの部分の学習なのだろうが、ボディメカニクスの考え方には目を開かされた。 支持基底面が広いほど安定性を増すが、狭いと不安定になるかわりに運動性を増す。だから寝返りをさせるときは、利用者の…

露天風呂の祈り

退院明けには湯治と思って、何回か続けて近所の温泉に行ったが、長続きはしなかった。気分転換をしようと、およそ4カ月ぶりに温泉に入る。 平日の日中だから、それほど混んではいない。広い野外のスペースがあって、そこにタイプの違う露天風呂が並んでいる…