大井川通信

大井川あたりの事ども

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

郷土望景詩三篇

萩原朔太郎のエッセイ『芥川龍之介の死』には、朔太郎の「郷土望景詩」を朝の寝床で読んだ芥川が、感動のあまり寝巻のままで朔太郎の家に押しかけて来た顛末が書かれている。それは朔太郎自身が「鬱憤と怨恨にみちた感激調の数編」と呼んだものだが、これだ…

夏といえば虫だ

休日の早朝、大井川周辺を歩く。去年の今頃は、和歌神社の境内の銀杏の木の根元に謎のように毎朝カブトムシが落ちていた。大木がすべて切り払われて変に明るくなった境内ではそんなイリュージョンは起こりようがない。 ふと思いついて、昨年、コガタノゲンゴ…

夢野久作の墓前で『犬神博士』を読む

旧杉山農園の場所の情報を探している中で、夢野久作の墓所についても知ることができた。これも驚きだったのだが、僕の妻の実家から歩いて数分の場所だったのだ。博多区の呉服町で、今は取り壊された実家の近所にある一行寺というお寺だ。 今の職場からもバス…

僕の夢ベスト5

「こんな夢をみた」シリーズをずいぶん書きためた。60程になる。ただ、読者の人から言われたことがあるのだが、どれもひどくつまらない。このタイトルで読むのをやめるそうだ。 もともと夢の仕組みや作られ方に興味があって、それを探るために「夢日記」を…

舞踏を読む

知人の振り付けた舞踏(作品名"gradation" 振付・井野禎子さん/ダンサー・辻奈津子さん)の上演が、参加する読書会の企画として、小さなアトリエで行われた。コンテンポラリーダンスというジャンルは全く歯が立たないことがわかっていたので、せめて生身の…

夢野久作の聖地へ

仕事の帰りに九産大前の駅で降りる。夕立はあがったが、気温は下がらず、べとべとと湿気を含んだ空気が身体にまとわりつく。携帯で話しながら歩く男の怪しげな言葉が耳に入る。「唐原は高周波暴露にやられていているようだ。昨日から星がチカチカしてみえる…

こんな夢をみた(侵入者)

大きな日本家屋だ。家ではなくて旅館のようで、いろんな家族が入っている。僕の家族は、妻と母のようだけれども、あまり見覚えはない。 にたにたと笑う不気味な男がやってきて、みんなでなんとか追い返そうとする。身体も大きく力もあるだけでなく、意外とカ…

芥川と朔太郎

今日は河童忌。ネットの青空文庫で、『湖南の扇』『たね子の憂鬱』『死後』など目につく小品を読んでみるが、どれもぱっとしない。ふと思いついて、萩原朔太郎の追悼文『芥川龍之介の死』を探して読むと、これは面白かった。 昭和2年の芥川の自死の直後に書…

映画『プリデスティネーション』を観る

2014年のオーストラリア映画で、公開当時にレンタルビデオを借りた記憶がある。妙に引き込まれるところがあって、また最後まで観てしまった。タイムマシンを使って犯罪を未然に防止する時空警察官である主人公が、不可解なパラックスを体験するという話。 面…

夢野久作の農園跡

休日なので、妻とドライブをする。妻の希望は、新宮のインテリアショップだったが、少し足を伸ばして、九州産業大学の美術館に先に行くことにした。九産大前駅近くの唐原(とうのはる)の街は、新婚の頃3年ほど住んだことがあり、長男を授かったのもこの土…

講演会を中座する

小説家村田沙耶香さんの講演会に参加する予定だったことを前に書いた。ふだん小説家の話を聞くことはあまりなかったが、読んでみた彼女の作品がとてもよかったので肉声に触れてみたくなったのだ。 当日、仕事帰りに会場の大学に行くと、会場には多くの人の姿…

梅崎春生を『蜆(しじみ)』で偲ぶ

忌日を利用して故人を忍び作品に親しもうと思いついたのだが、うまくいっていない。先月からでも、6月7日の西田幾多郎、19日の太宰(桜桃忌)、28日林芙美子、7月9日鴎外、10日井伏鱒二と、なすすべもなくスルーしてしまった。 それで昨日の19日が、梅崎春生…

金字塔 その他の塔

何かの業績をほめたたえるときに、「金字塔」という喩えを使う。少し大仰な響きもあるが、ごく一般的な用法だろう。ところが、ふとこの金字塔そのものが気になった。これはいったいどんな塔なのだろう。 無意識のうちにたぶんこんな正解を予想したと思う。昔…

詩を選ぶということ

4年前に詩を意図的に読み続けようと決意して、ちょうど3年前から詩歌を読む月例の読書会に参加するようになった。近ごろになってようやく、詩集を手に取ったり、詩を読んだりすることに抵抗がなくなってきた気がする。 他人の作った詩がわからないのは当た…

10年ぶりに東京デスロック『再生』を観る

東京デスロックの『再生』を10年ぶりに観た。10年前も、福岡公演と北九州合同公演と二つの舞台(その時は『再/生』)を体験したが、今回も劇団バージョンと北九州バージョンとの二本を観た。前回の北九州公演はデスロックに地元の役者が加わる形だったが、…

はじめて舞踏を観る

三軒茶屋のシアターコクーンで、舞踏の舞台を観た。演劇ではなくダンスが主体の公演を観るのは初めてだ。予備知識もないし文脈もわからないが、とりあえず印象をメモしてみる。鈴木ユキオプロジェクトの二作品で、前半の一時間弱はほぼ鈴木ユキオ一人のダン…

『戦後青春』 岡庭昇 2008

7月14日は岡庭昇の忌日なので、一冊を取り出して読む。 すさまじい本だ。奇書といっていいかもしれない。池田大作と創価学会の擁護、というより礼賛の本である。しかし著者は創価学会の外部の人間だから、そのかかわりは身近な交友関係や読書など、ごく部分…

to R mansion『にんぎょひめ』を観る

to R mansion を観るのは、およそ10年ぶりだ。旧銀行の小さな劇場で、身近にめいっぱい元気で楽しい舞台を観たことを覚えている。小劇場を初めて体験した長男が衝撃を受けていた。 今回の公演のフライヤーでも、「光と闇のステージアート」をうたっていて、…

ヒメハルゼミは健在でした

鎮守の杜が無残に伐採されてしまってから、和歌神社にはなかなか足が向かなかった。本当なら6月の終わりにはヒメハルゼミの合唱を聞きにいっていたところだ。ただ、このままシーズンが過ぎてしまうと、今年がどんな状況だったのか確認できない。 それで今日…

大手拓次を読む

学生時代、熱心に詩を読んだり書いたりしていた頃、大手拓次(1887-1934)の存在が気になっていた。今回読み返してみても、詩作品そのものが印象に残っているわけではない。生前に詩集を持てずに不遇だったことや、ライオン歯磨きの会社員をしながら女性職…

百合とススキの話

秀円寺の裏から大井へと古い石段を降りていると、斜面に咲く百合の花が目に入った。白い花弁に赤い細かい斑点がはいっているのが目をひく。市の花であるカノコユリであることは、植物にうとい僕にもすぐにわかった。カノコ(鹿の子)は、シカの背中にある斑…

二つの美術館

久しぶりにブリジストン美術館に行こうとしたら、あたらしい建物に入って名前も変わったいた。都会のど真ん中の新築のビルの5階くらいまでを占有していて、それより上階の高層棟はまったくの別のビルように見える。名前は、アーティゾン美術館。 大きなガラ…

競馬G1前半戦総括

競馬の場合、前半戦というべきなのか、春競馬といっていいのだかよくわからないが、3月末の高松宮記念から毎週のようにあった中央競馬のG1レースが、6月末の宝塚記念で一区切りとなった。あとは地方の夏競馬をはさんで、10月からの再開を待つことになる。そ…

国土をなぞる

福岡空港から羽田まで、なめるように国土を見下ろし続けた。翼が邪魔にならない前方の窓側の席で気象条件もよかったからだが、ここまでしたのは初めてのような気がする。定年で精神的に余裕が出たせいかもしれない。東京の書店で大判の日本地図を買って、さ…

七夕その他

今日は七夕だから、アニメ涼宮ハルヒの『笹の葉ラプソディ』でも見返そうと思ったけれども、果たせなかった。この頃は、忌日や記念日を呆然とやり過ごすことが多い。年をとったせいのような気もするし、もともとそうだったような気もする。 七夕といえば、昨…

村田沙耶香を読む

若いころは、講演会にいくのが好きだった。有名無名にかかわらず著書にサインをもらうのも楽しみで、コレクターのように(寺社の朱印帳のように)集めていた気もする。いつの間にか、講演にもサインにもこだわりがなくなってしまった。 知人に紹介されたのを…

とほい空でぴすとるが鳴る

萩原朔太郎の故郷の前橋を訪れた。 少年時代から愛唱している朔太郎の詩には、前橋の風景がよくうたわれていて、実際に目の当たりにするのは、ファンとしてたまらない。 広瀬川は街中を流れる小さな川だが、利根川水系だけあって、その水量がすごい。「広瀬…

旅客機再入門(その2)

すぐに飛行機にのる機会があったので、空港でじっくり旅客機の機体を観察する。 やはり、かっこいい。しかし、どことなく単調な風景だ。かつてのジャンボのような個性的なスタイルの4発機や、DC-10のように尾翼にもエンジンを備えた3発機の姿はない。 ど…

旅客機再入門

職場の若い同僚に金曜の夜の予定を聞いてみたら、飛行場に飛行機を見に行くという意外な答えが返ってきた。飛行機が好きで、本当は空港の整備士になりたかったのだという。 こういう風変わりな趣味を聞くと、がぜん興味がわいて、真似をしたくなる。欲望とは…

合歓の木の話

しばらく前から、ババウラ池の縁に生えた木に見慣れない花がたくさん咲いていることに気づいていた。白い綿毛のハケみたいな花で、先の方はピンクに染まっている。シダの葉のような細かい葉もついている。 どこかで見たことのある木のような気もしてきて、ふ…